INTERVIEW Vol.1

金尾玲生プロサーファー

サーフィン。服づくり。環境問題について想うこと。

プロサーファーでありながら、自身のアパレルブランドを切り盛りする実業家としての顔も持つ金尾玲生さん。
彼のライフスタイルから垣間見える、今求められる新しい生き方のヒントとは?

サーフィンとアパレル業、どちらも自分を表現する手段。

「朝起きて、波があればサーフィンに行って、帰ったらアパレルの仕事をしたり、都内へ打ち合わせに出かけたり……。
波がない日なら自宅でトレーニングをして、その後は都内で仕事、という日もあります。
これといって決まったライフスタイル、というのはないかもしれません」。

プロサーファーには大きく2つのスタイルがある。
ひとつは「コンテストにたくさん出て、“勝負”にこだわるプロ」。もうひとつはフリーサーファーといって、
「コンテストでは戦わず、映像などを通してサーフィンの格好よさや魅力を伝えていくプロ」だ。

物心つく前から父親の影響でサーフィンに親しんできた彼は、全日本サーフィン選手権で
優勝したこともある実力の持ち主。だが、現在のプロサーファー・金尾玲生としての主軸は、後者にあるという。

もともと、“表現すること”が好きだったという。仕事場には、
自ら撮影した写真やペイントしたサーフボードなどが所狭しと飾られていた。

「自分を表現できる場、というのは大切にしています。そもそも、ボードに絵を描くようになったのは、
『他人と一緒が嫌』だったから。スケボーなんかにもデッキテープの上にペンで
よくイラストやグラフィックを描いていましたね。
写真にしても絵にしても、“正解”がない。そこが魅力なんです。
100人いたら、それぞれに違う受け取り方があって、僕が描いたら100円にもならないような絵でも、
ジャスティン・ビーバーが描いたら1億円の価値が生まれるかもしれない。それがたとえ1本の線でも。
そういうところに表現することの奥深さ、というか面白さを感じます」。

自分を表現することを、自然とライフワークにしてきたで彼が、
プロサーファーと二足のわらじで取り組んでいる仕事がある。
自身で立ち上げたアパレルブランド「SOLID」だ。サーフィンやスケボーカルチャーといった、
出自を想起させるストリートっぽいデザインの服や小物を中心に、
さまざまなアーティストとのコラボレーションによって実現したジャンルレスなプロダクトを製作・販売している。

「ずっと服が好きだったので、アパレルの仕事は“将来やりたいことリスト”に入っていたんです。
だったら自分でやってみようと。
デザインはアーティストさんと相談し、企画、生産、スワッチングは基本的に一人でこなしています。
こうやってサーフィン以外の仕事をすることは自分の人生にすごくプラスに働いていると思います。
例えば、サーファー以外のさまざまな人たちとのつながりができたこと。
自分が経験したことのないことをしている人って、世の中にたくさんいる。
企業のトップの方はもちろん、自分が野球をやっていた頃の友人で
甲子園常連校のキャプテンを務めたヤツとか、普通に会社勤めをしている人だってそう。
自分には絶対できないことを経験している人の話って、立場関係なく面白いし勉強になります。
そういう“人とのつながり”というのは、人生において大切にしていることのひとつです」。

アパレル業に勤しむ一方で、本業のサーフィンとの両立はやはり大変な部分も多い。
しかし、そこはあくまでアスリート。自身のコンディションに対する意識は当然高い。

「サーフィンのトレーニングは自宅で自分でもやりますし、パーソナルトレーナーに見てもらうこともあります。
筋力トレーニングはもちろん、バイクを漕いだり、泳いだり……。
腰があまり強くないのでランはしないんです。体に入れるものにも気を使っていますよ。
トレーニング後にプロテインやアミノ酸は必ず摂りますし、栄養士やトレーナーの人に
食べたものを送ってチェックしてもらうこともある。
今なら夜に炭水化物を摂らないとか、揚げ物は控えるとか……けっこう辛いですけどね(笑)。
あとは水かな。水素水が出る浄水器を使っているんですけど、
料理をするときとか、出かけるときにマイボトルに入れていくのもこの水です」。

自分にできることにフォーカスし続けることの大切さ。

プロサーファーとアパレル業の両輪で、忙しい日々を送る金尾さん。
これまでは海外で活動する機会も多かったというが、
コロナ禍の前後でライフスタイルや思考に変化は生まれたのだろうか?

「海外渡航とか、制限がある部分に関しては当然変化はあります。
でも僕自身、内面的な部分は何も変わってないですね。
これまでは1年の半分くらい海外で活動していたので、その場に行けないのは単純に辛いけど、
向こうの友人たちとはインスタグラムでやり取りしていますよ。アメリカの友だちは『マジでやばい』と。
一方で、オーストラリアの友だちは『今日の波はいいぞ』って。
いや、そういうことじゃないんだけど、みたいな(笑)」。

サーファーにとって、国内外の大会を転戦することは当たり前。
ここ日本でも、新型コロナウイルスの影響で、今年予定されていた大会は軒並み中止になっている。

「そこに関してはもう、しょうがないですよね。来年またやればいいと切り替えるしかない。
僕自身は怪我の影響で調子が悪かったこともあって、『準備期間が増えた』とポジティブに捉えています」。

どんな状況でも、自分にできることを粛々と。湘南育ちで幼い頃からサーフィンを通して海と親しんできた彼にとって、
環境に対する取り組みも大切なライフワークのひとつだ。日本でも今年の7月からレジ袋が有料化され、
マイバックを持つ習慣が一気に浸透し、人々の環境に対する意識も変わりつつある。

「今日からエコな生活をしようと思っても、いきなり全てを変えるのは絶対に無理だと思うんです。
プラスチック製のものなんて、実際には生活の中にたくさん存在しているのが現実ですし、
プラスチック自体、立派な発明だから否定もしたくない。だったら『できるだけ減らす』っていう意識で、
たとえばマイボトルを使うとか、できることから少しずつ始めることが大切なんじゃないかな」。

サーフィンをして海から上がるとき、片手はサーフボードで埋まっているが、もう片方は空いている。
そこで、その空いた方の手でゴミを5個だけ拾うことを、彼は長く習慣にしている。

「片手で持てるぶんだけゴミを拾うようにする。それって簡単なようで、なかなかできないことなんですよね。
でも100人が海に入っていたとして、全員がそれを実践すれば、かなりキレイになるはずなんです。
まずは自分にできることから。その積み重ねだと思います」。

今を大切に、自分の好きなことに正直でいる姿勢。他者への配慮やリスペクト。身近な環境を労わる気持ち。
できることを少しずつ、真摯に積み重ねていく彼の生き方から、気づかされることは多い。

「まずは自分にできることから始める。
その積み重ねが大切だと思います。」

金尾玲生

1992年生まれ、神奈川県茅ヶ崎市出身のプロサーファー。
幼い頃からサーフィンを始め、2010年には全日本サーフィン選手権大会で優勝するなど、
さまざまな実績を持つ。現在は自身で立ち上げたアパレルブランド「SOLID」でも精力的に活動中。

  • Photo: Akane Watanabe
  • Edit&Text: Soichi Toyama

Magazine一覧