2021.11.16

INTERVIEW Vol.11

Mt. TAKAO BASE CAMP山のライフスタイルとカルチャーを発信する山麓の山小屋

「お弁当を食べに山へ行こう」。
高尾ベースが“山弁当”に詰め込んだ想いと中身

東京・高尾山の麓にある山小屋「Mt. TAKAO BASE CAMP」(以下、高尾ベース)は、宿泊施設はもちろん、
カフェやシャワールーム、ロッカーなど、山を訪れる人の“必要”を備えた憩いの場だ。

2019年11月のオープン以来、登山者やトレイルランナーを筆頭に、
高尾の豊かな自然を楽しむ人々から支持されてきた。

今回はそんな高尾ベースが、オープン2周年を機にスタートする新サービス、“山弁当”に注目してみたい。

山のゴミ問題、ボランティアだけでは限界がある

お話を伺ったのは、スタッフの堀栄美さんと岡橋夏実さん。当然ながらお二人とも、登山やトレイルランニングを趣味に持つアウトドア巧者だ。

堀栄美さん/お客として高尾ベースを訪れた際、スタッフの気持ちのいい対応に感激。
自分もそれを与える側になりたいと思って高尾ベースの一員に。現在は副店長を務め、イベントの企画や広報などを担当している。趣味は登山やハイキング

「私たちは、宿泊や飲食といったいわゆる“山小屋”としての役割はもちろん、山に寄り添ったライフスタイルや、
その周辺にあるカルチャーを自らつくり、発信していく存在でありたいと考えています。

これまでも山に関するさまざまなイベントを行なってきましたが、それらはまず、大前提として、
自然への感謝の気持ちや、山をキレイに保つという意識があってこそ成り立つものです」(堀さん)。

高尾ベースでは、昨年の11月くらいから今日まで、お客さんたちの協力の元、高尾山の清掃活動を継続的に実施してきた。
昨今の環境問題への意識の高まりもあってか、ひと昔前に比べれば減っている感覚はあるものの、
それでも月1回清掃を行うと、やはり多くのゴミを回収しているのが実情だという。

「菓子パンの袋、お菓子や補給食の切れ端、缶にペットボトルと、一つひとつは大きくないものの、たくさんのゴミが落ちています。
そのすべてが故意に捨てられたものではないにせよ、そういう現実がある、ということです」(堀さん)。

岡橋夏実さん/高尾ベース主催のイベントに参加したことをきっかけにトレイルランニング出合い、それを機にスタッフに転身。
バリスタの資格を取得するほどのコーヒー好きで、特技はラテアート。主にキッチンを担当

活動をする中でふと浮かんできたのが、「いったい私たちは誰のゴミを拾っているんだろう」という疑問。
ゴミが落ちている場所や、実際の登山者の様子などから見えてきたのは、
山に慣れていない一般の観光客が持ち込む飲食系のプラスチックゴミが大半である、ということだった。

「普段から山に親しんでいる人は、自然の中にゴミを持ち込まない意識が当たり前になっている。
その一方で、年に数回しか山を訪れないような人は、そういった意識が希薄な上に、
山でゴミを出さないように工夫するノウハウも持っていない人が多いと思うんです。
そんな人たちがどうすれば、山にゴミを持ち込まないようにできるかが、この問題を解決するひとつのポイントになると考えました」(岡崎さん)。

清掃活動だって、ゴミの処理費や備品購入費、人件費といったコストが否応なくかかるもの。
いくらボランティアとはいえ、それを支える人たちの善意やパーソナリティだけに依存するばかりでは、
この問題の本質的な改善には至らない。

とはいえ、一人ひとりの意識改革や啓蒙活動にも限界がある。
そうなると、仕組みから流れを変えることが必要になってくる。

「そこで考えたのが、テイクアウトによるお弁当事業でした」。

その日に手に入る食材から考案された山弁当の“設計図”

山にお弁当を持っていく習慣を新しいカルチャーに

旬の食材を使った地産地消の料理を、フードジャーに詰めた“山弁当”。

これを山の麓で登山者に渡し、温かいまま楽しんでもらう。
空になったフードジャーは、帰りの電車に乗る前に返却してもらい、しっかりと洗って翌日以降もリユースしていく。

「いわゆる、山に慣れていない人たちにとってネックになるのは、まず食べ物を用意すること。
そして、それを持ち帰って洗うとなると、ハードルはさらに高くなります。
せっかく山に来ているのだから、誰もが非日常を味わいたいし、観光地に行ったら、
その土地ならではの食を味わいたいと思うのは当然だと思います。
普段から山の近くにいる私たちは、その方法を知っているのだから、それを積極的に提供すべきだと考えました」(堀さん)。

この“山弁当”の容器には、我らがハイドロフラスクのフードジャーが採用されている。

「アウトドア感のあるワクワクするようなデザインやカラーバリーションがとても良いし、
保温性や耐久性といった機能もしっかりあるので、山弁当にはピッタリのアイテムだと思いました。
何より、このサービスを利用する人たちから『なんかアレ、いいなあ』と憧れの気持ちをもってもらえることが、
山の新しいカルチャーとして育てていく上でポイントになるからです」(岡崎さん)。

ではここで、この日のために用意してもらった山弁当の中身をご紹介。

きのこを使った季節の炊き込みごはんを敷いた上に、メインのサバカツをはじめ、
切り干し大根、梅干し、煮卵、ほうれん草、ポテトサラダ、そばの実と、おかずも盛りだくさん。
そのほとんどが、地元八王子の食材から作られていることも特筆しておこう。

これらが20ozのフードジャーに、キレイに盛り付けられている。
山頂にたどり着いて、フタを開けた時を想像するだけで、ワクワクしてくるようなお弁当だ。

「『山に登るのではなく、お弁当を食べにいく』という楽しみ方も、高尾山ならアリだと思うんです。
本格的に登山やトレイルランニングをする方は、少しでも荷物を軽くしたいという思考があるので難しいかもしれないけど、
ゆるっとハイキングに来た人にはむしろちょうどいい。

『天気の良い山日和に、高尾山で食べたお弁当が美味しかった』。
そんな体験を、少しでも多くの人にしてもらうことで、それがカルチャーとして成熟し、
自然を大切に思う意識が広がっていけばいいなと思っています」(岡崎さん)。

このお弁当事業が、高尾山だけでなく、全国の自然景勝地にも広がっていってほしいと語る。
観光地にゴミが溢れる原因として、オーバーツーリズムの問題も見逃せない課題だからだ。

「せっかく観光地に行ったのに、その土地の食にありつけないという問題は山に限った話ではありません。
例えば海。ハイシーズンに人が溢れ返ると、海の家で食べられないという人も出てくる。
だったら事前にコンビニなどで買っておこうとなり、結果ゴミが出てしまうことになるわけです。

だから、山で生まれたお弁当のカルチャーが、海に派生したっていい。
ひとつの事業にとどまらず、社会問題を包括的に改善していけるようなアウトドアカルチャーをつくっていけたらと思っています」(堀さん)。

サステナブルな社会を目指そうとひと口に言われても、どこか観念的で行動も後手になることが多い。
山へ行く前にお弁当を準備することを格好良いカルチャーとして、それを山頂で食すことをワクワクするアクティビティとして捉える。
一人ひとりのポジティブな意識の積み重ねが、大きな成果へとつながっていく。

何もやらないよりは、何かやったほうがいい。まずこのお弁当を楽しみに、高尾を訪れてみよう。

山に登るのではなく、お弁当を食べにいくという楽しみ方も、
高尾山ならアリだと思う。

「Mt. TAKAO BASE CAMP」

東京都八王子市高尾町1779-3
042-673-7707
info@takaobc.com
https://takaobc.com/

  • Photo: Akane Watanabe
  • Edit&Text: Soichi Toyama

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