2021.07.06

CROSSTALK Vol.8

建築家と音楽家。旅するように暮らす
2人のクリエイターのライフスタイル考

建築家の岩切剣一郎さんと、シンガーソングライターのLisa Halimさん。
一見すると接点がなさそうな2人だが、実は共通点が多い。

サーファーであること。
クリエティブな仕事をしていること。
そして、一つの場所にこだわらず、全国各地を旅するようなライフスタイル実践していること。

そんな彼らの対談から、新しい暮らし方のヒントを感じとってほしい。
(※以下、敬称略)

場所を変える。それだけでスイッチが変わる

まずはお二人が普段、どのようなライフスタイルを送っているのか、簡単に教えてください。

岩切剣一郎/1972年生まれ、宮崎県出身。株式会社ケンロックCEO。一級建築士、ライフスタイル・プロデューサー。
サーフィンを筆頭にバイクやゴルフなどといった幅広い趣味を生かした、“かゆいところに手が届く”空間づくりを得意とする。

岩切/僕は建築家としての活動をメインに、街づくりやショップデザインを含めたさまざまな分譲地のプロデュースのほか、
最近は自ら分譲地をプロデュースしたり、その中に人が集まるコミュニティースペースを作って運営したり、
コワーキングスペースをつくったり……。
“旅するように暮らす”をコンセプトに、全国各地のさまざまな場づくりに携わっています。

例えば、手ぶらで地方に行って、そこに行くと知り合いがいて、自分のサーフボードやウェットスーツも置いてある。
そこで仕事をしながらサーフィンも楽しみ、人との新しい出会いが生まれたりする。
そういう場所が全国に何拠点もあることで、ライフスタイルがもっと楽しくなると思うんです。

何より、自分自身がそういう暮らしをしたいから、っていうのがモチベーションになっています。
僕もサーフィンをしながら仕事をしたいし、クライアントさんもサーファーの方が多い。
そうすると、いい意味でオンとオフの垣根がなくなって、サーフィンをしながら仕事の打ち合わせをする場合もあったり、
まさにプライベートも仕事も楽しみながら、お客さんと一緒に体験しながら、というのが僕のスタイルです。

Lisa Halim/1985年生まれ。シンガーソングライター。
インドネシア人の父と日本人の母を持つ。2007年にメジャーデビュー。
趣味はサーフィン。旅をしながら波に乗り、ナチュラルライフを謳歌する姿が同世代の女性から支持を集めている。

Lisa/私も旅をしながら曲を作ることは多いですね。
いろんな場所に行くたびに曲を作って、それを発信して行く。
場所を変えたり、移動することで曲のアイディアが浮かんだりすることは本当に多い。
例えば、あえて一人である場所に旅に行って、
ちょっと無理してでもお金出して心地いい場所に滞在することで、創作の有意義な時間を作ることできる。
「この時間、この1日しかない」という気持ちで部屋に籠ると、すごく集中できたりしますね。

Lisaさんは伊豆の下田によく行かれるとか。

Lisa/今は都内と下田の二拠点で、それぞれ月に半々ずつくらいで生活しています。
それこそ、都会にいる時と、海の近くにいる時では、浮かんでくる曲も全然違いますね。

私もサーフィンをするんですが、デビューは湘南でした。
でも初めて下田の海を見た時にその綺麗さに感動して。
なんだか島っぽい雰囲気というか、人がのんびりしているところもすごく好きなんです。
基本的に時間に追われるのが苦手なので、そういう場所が合っているのだと思います(笑)。

コロナの前は、特に夏はイベントやフェスで忙しくて、「キツい〜」と思ったときに、
「1泊だけ!」と思って下田に行ったらすごくスッキリしたんですよね。
綺麗な海で心が浄化されるというのは本当だなって。

岩切/海は眺めているだけでスイッチが変わりますよね。
あの開放感というか、何もない気持ち良さというか。
例えばカリフォルニアの海へ行くと、人がみんな幸せそうにしている。
ランニングやサーフィン、ビーチバレーを楽しむ人がたくさんいて、ハッピーオーラがすごいんですよね。
だから自分がそこにいるだけで幸せになれる。
海の魅力はそういうところにもあると思います。

Lisa/まわりの人が人生を楽しんでいる姿を見ることも大切ですよね。

岩切/僕も住宅の設計考えるときに、開放感や気持ち良さをどう表現するかということは大事にしています。
ダークな、冷たい感じのする家は、あまり作ろうと思わない。
中と外が空間としてつながっていて、気持ちいいと思えるような家づくりを心がけています。

人との出会いやつながりをプラスに変える

旅するように暮らす、ということが、人生のプラスになっていると感じるのはどんなときですか?

岩切/フットワークが良くなるのはもちろんですけど、一番は人とのつながりと、
それに伴ってさまざまな経験ができることは大きいと思いますね。

Lisa/その場所での出会いがきっかけで「今度フェスに来てください」とか、仕事に直接つながっていく、ということもありますね。
でもやっぱり、それまで知らなかったものを知れる、といった経験が自分にとっていい刺激になっています。

岩切/僕が仕事やプライベートで関わる人はサーファーが多いんですけど、みなさんオープンマインドなんですよね。
だからどこにいても誰とでも仲良くなれる。自分もそういうマインドも持っていることで、
そういう人の輪みたいなものが自然と広がっていくような感覚はあると思います。

みんな暮らし方、生き方にスタイルを持っていて、それこそ、トレーラーハウスに住んでいる人もいれば、
バチっとセカンドハウスを建てる人もいるんだけど、自分が楽しいかどうかの軸をしっかり持っている。
そういう、いろんなライフスタイルを間近で見れるのは、刺激になるし、仕事にも確実にプラスになっているでしょうね。

Lisaさんはコロナ禍になってクリエティブに何か変化はありましたか?

Lisa/正直、音楽家にとってマイナスの部分が多かったと思います。
ライブもできない。
フェスもできない。人が集まったとしても、声を出せないとか拍手だけ、というのはやっぱり寂しいですよね。
人の熱を感じることって、私にとってはすごく大切なことなので。
それでも自分の活動を止めないように、今できることをやっていくしかない。

その中で6月から6カ月、ひと月に一曲のペースで新曲を配信するっていう取り組みを始めました。
友達に会えない。家族に会えない。そういう寂しい気持ちに寄り添えるような曲を届けたいなと思っています。

自分の強みをどんどん生かしていけばいい

コロナ禍でワーケーションという概念が生まれたり、移住や多拠点生活をする人も少しずつ増えています。
これまでにない、新しいライフスタイルが広がって行く上で、ポイントはどんなことでしょう?

岩切/段階的に考えて、まず“通える場所”をつくることが第一だと思いますね。
いきなり今の仕事を辞めて移住する、というのはやっぱりハードルが高い。
そこへ移住するきっかけとして、その場所に知っている人がいる、仲間がいる、安心する人がいる、っていうのが大前提だと思うんです。

だからそういう場所を、まず持っておくことですよね。
まずは人。それにプラスして、いい波があるとか、いいカフェがあるとか、癒される自然があるとか。
僕の仕事は、そのきっかけをつくることなんですよ。
僕は実家が宮崎ということもあって、今は行政と一緒に移住のお手伝いなんかもしています。

Lisa/宮崎は大好きです。仕事で撮影に行ったり、イベントに呼ばれて歌ったこともあります。
おしゃれなお店、多いですよね。海の目の前もカフェスペースとかがあって。

岩切/移住者の方でやられる方がけっこう多くて、今盛り上がってきているんです。
人もいいし、飯もうまいし、いいところなんですよ。

お二人が人生において大切にしていることってなんですか。

岩切/ひと言でいうなら、「人生一度きりしかないから人生楽しむ」。
やろうと思ったことはやらなければもったいない。

とはいえ、岩切さんのようにオンオフ関係なく、仕事もプライベートも全力で、
ていうのはけっこうハードルが高いと思うんですよね。
何か“コツ”みたいものはあるんですかね? オンとオフの垣根をなくす。

岩切/あまり意識はしてないですけどね。
僕自身、サーフィンとかバイクといった趣味を持ってますけど、
例えば住宅の設計をする時に、ご主人も似たような趣味の方って多いんですよね。
そうなると、サーフィンの導線を考えたりとか、ハーレーをしまうガレージが必要だなとか、いろんな提案ができるじゃないですか。
そういう意味で、趣味が仕事に生きてるなあと感じることは多いんです。
そこを自分の強みとしてもっと出していけば、自分自身がさらに生きるんだと思うし、
オンとオフの垣根もどんどんなくなっていくんだと思います。

Lisa/音楽始めたばかりの頃は、「ただ歌うことが好き」というだけだったけど、
次第に「私が歌うことで励ませる人がいるんだ」というか、
歌う意味が自分にあることを感じて、それって幸せなことだなって思えるようになりました。
ということは結局、自分のために歌っているんだなあって。

10代の頃は自分の経験とリンクして恋愛とか失恋の歌をたくさん書いていたんですけど、
今は生活が安定しているから、そういう歌詞を書くのがだんだん難しくなってきた。
でも、妄想で書くのは違うなと思うし、若い頃に書けなかったような曲が今は書ける。
そこをポジティブに捉えて、曲づくりに生かしていければと思いますね。

  • Photo: Akane Watanabe
  • Edit&Text: Soichi Toyama

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