海を感じ、自然の中で遊ぶライフスタイルと
世界で活躍したMIGHTY CROWNからの最後のギフト
サーフィン、SUPフィッシング、フリースキーと、湘南に移り住んでから自然の中に身を置くことが多かったというSAMI-Tさん。そのためか佇まいは穏やか。しかしレゲエの話題になるとトークに熱が帯びてくる。レゲエ界の本場で勝負したいと日本を飛び出し、本場で結果を残してきた第一人者としての存在は唯一無二である。そして活動休止を迎えるこのラストイヤーに、“世界のレゲエ”を体感できるビッグなギフトを用意しているという。
横浜と湘南で海は全然違った
波があればサーフィンをして、なければ竿を持ち出し沖合でSUPフィッシング。そして冬にはパウダーを求めて各地の雪山へ。レゲエクルーMIGHTY CROWNのセレクター、SAMI-Tさんは、およそ8年前に湘南へ移り住んだことをきっかけに自然のなかで遊ぶ日々が増えたと言う。
興味深いのは、生まれ育った横浜・本牧にも海がありながら、湘南に来て初めて自然としての海を感じたということだ。
「地元に海はありますけれど、釣りをするくらいで海の中で戯れられる環境はないですよね。それこそ親父の時代は海がもっと身近だったのかもしれないけれど、俺が子供の頃には、もう埋め立てられていたから、身体的に海というものに触れられる機会はありませんでした。だから心の距離は遠かったですね。海はあるけど横浜は街ですよ。同じ神奈川だけど湘南は遠いんで。横浜とは違う街、海がある方だよねという見方だったかな」
「けっこうプライドが強くて横浜から出ない人が多く、勤めるオフィスが東京でも横浜の家から通うというイメージ。だから湘南に移った俺はレアみたいです。とはいえ住めば都。やっぱり湘南はいいですよ。ラッキーなことに、天気がいい日は自宅から富士山がドカンと見えますし。海や自然に触れられるのは最高でおかげでバイブスもだいぶ変わりました。ガキの頃は砂がついたり潮でベタつくのが嫌でプールでいいじゃんなんて思っていたけど、サーファーとかまわりの人を見ても海に入っている人は健康的。潮水に浸かれない日が続いたほうが不健康な気がします」
そうして藤沢や鎌倉のサーフエリアでサーフィンに興じ、「今日は釣りだ」という日にはSUPを持ち出す。かつては空気を入れることで膨らみ、空気を抜けば畳めて持ち運びしやすいインフレータブルというタイプのSUPだったが、釣った真鯛のヒレで穴が空いてしまい徐々に空気が抜けていくなかを岸に戻る恐怖体験を味わった。以来、折り畳めないが発泡スチロールのような素材でできた軽量なソフトボード型のSUPを愛用。なるべく一人では行かない、岸辺は無風でも沖合で風が吹いていたら行かない、そんなリスク管理をしっかり行なって、ビーチ沿いのライフスタイルを満喫している。
日本のレゲエの現在地は危機的状況 レゲエのパワーはもっとすげえ
常に身近に自然を感じる暮らしを送りながらも1999年にニューヨークで開催されたフリースタイルバトルのワールドクラッシュでアジア人として初めて優勝するなど、世界のレゲエシーンで圧倒的な存在感を発してきた熱きスピリッツは不滅だ。「こっちに来てからバトルは負けなし」というように、身体には潮の香り以上にサウンドが刻まれている。
「子供の頃から、スティーヴィー・ワンダーや、ビートルズ、カーペンターズとか、親が聴いていた洋楽を耳にして育ったんでね。音楽はずっと身近にあるものです。それにMIGHTY CROWNの結成は1991年、16歳のとき。以降はクルーで世界へ飛び出し、レゲエカルチャーの中心でやってきましたから。その頃の思いは、頑張って言葉を覚えて、向こうの土俵でやるぞという挑戦者のもの。俺らは世界で戦いたいんだと、その思い一心でしたね」
本場だからこそ受けた衝撃を日本の人たちと共有したい、共感してもらいたいという気持ちを大切にしてきた。彼らがパフォームしてきたステージは世界の第一線だ。日本のミュージシャンの聖地が武道館であるように、ニューヨークのB.B.キングやバークレイズ・センター、ロンドンの02アカデミーといった各地の名だたる“聖地”で数多くのアクトを披露してきた。
「残念なことですけど、そういった海外での活動に関してはあまり日本のメディアで取り上げてもらう機会はありませんでした。正直、海外での評価と国内のそれとのギャップはずっと感じていて。とはいえ、日本の現状を思えば理解しにくいんだろうなとも思うんです。今も日本のレゲエの現在地、これはもう危機的状況だと感じるくらい。内向きで、海外とリンクしていないところに危うさを覚えます。確かに日本だけで盛り上がるのもいいんですけど、世界のレゲエのスタンダードから見ると、日本は置いていかれている印象があって。向こうとも、もっとガッツリつながっている状況にしたいんですよね」
レゲエ界の中心で存在感を発したMIGHTY CROWNのクルーゆえの見解だ。何せ求めて行動すれば、どれほど重そうな扉も開くことを実証してきた。その軌跡を振り返れば、先述したワールドクラッシュでの優勝、同イベントのレゲエの母国・ジャマイカ大会(2007年)での優勝、1995年から2017年に至るまでは日本最大のレゲエミュージックフェス横浜レゲエ祭を主催するなど枚挙にいとまがない。ちなみに横浜レゲエ祭は150人から3万人へと来場者を増やしていったが、その間、大手企業からのスポンサーを受けることは一切なかったという。それは音楽の魅力を最高純度でファンに届けられる場を音楽家みずからが創出するといった光景に海外で触れ、共感し、日本でも実現したいと行動に移した結果だった。
そしてこの夏も、世界基準のエンターテイメントを日本のファンに用意している。
「MIGHTY CROWN」からの最後のでっかい贈り物
さて、世界で活躍してきたMIGHTY CROWNは30周年を迎える今年の夏をもって活動を休止する。これまで現場第一でやってきた。彼らが日本を飛び出した1990年代は、まだ実際に動かないと情報を手にできない時代。それゆえの積極的な姿勢だが、現場こそが重要とする思考は、手にできる情報量が膨大となったSNS時代の今でも変わらない。むしろググったらなんでも出てくる今だからこそ、海を渡ったほうがいいという。画面を通してみる異国の青空を、実際に目にしたときに何を思うか。そのときの“心のゆらめき”を含め、肌で感じることが重要だからだ。
「本物を実際に感じることが大切だと思うからこそ、ラストイヤーの今年は“世界”を紹介したいと思っています。それは①デイビッド・ロディガンとのツアー、②横浜レゲエ祭―The Final in赤レンガ倉庫、③FAR EAST REGGAE CRUISEという3つのプログラムで構成するMIGHTY CROWN FINAL SEASONによるものです。
まずは3月18日に俺らの聖地と呼べる横浜ベイホール、そして20日に大阪のclub JOULE(クラブジュール)で最後の来日を宣言したイギリスの巨匠レゲエ・セレクター、デイビッド・ロディガンとのタッグツアーを行います。このライブを観るため日本に来るという海外の知人もいるほどで、“世界基準”を体感できるビッグチャンスになっています。次が6月24日・25日の2デイズにわたり横浜みなとみらい地区の赤レンガ倉庫で開催される横浜レゲエ祭。3つ目が7月開催の日本寄港史上最大級豪華客船をステージとする夏フェスFAR EAST REGGAE CRUISEです。
これは俺たちの原点、世界を実際に見て感じ、それを日本のみんなと共有したいという思いが詰まったもの。実のところ俺自身は7年前に初めてレゲエフェスを催す豪華客船に乗りました。ボブ・マーリーの息子、ダミアン・マーリーが主催するもので、ものすごい衝撃を覚えたんです。船に乗ればキラキラとした豪華な空間に驚かされ、乗船者だけに足を踏み入れることを許された船上にはショッピングやカジノ、プールやレストランといったコンテンツがあり、それらを楽しむBGMには大好きなレゲエがずっと流れている。そして夕刻にはアーティストのライブがスタート。そんな夢のような時間が数日にわたって続くんです」
ラグジュアリーな客船を使った同様のフェスはカリブ、マイアミ、カナダ、イギリスなどのヨーロッパ、シンガポールなどのアジアと世界各地で展開され、しかも音楽ジャンルもレゲエに限らず、ヒップホップ、EDMなどでのクルージングも存在している。「ないのは日本だけ」とSAMI-Tさんは言い、そこで日本も負けていないと世界に発信するため、日本のエンタメ業界のトップバッターとしてFAR EAST REGGAE CRUISEを用意したのだという。プランは7月15日に横浜港を出港し、韓国・済州島、熊本に寄港して横浜港に帰港する5泊6日の旅。活動休止直前の特大ギフトとして、「これが世界だ」という刺激に溢れるハッピーな空間を提供してくれるのだ。
Photo: @Kuwaphoto, @yenfilm, @junya_thirdeye, @ryuichioshiro, @realshot_masato Edit&Text: Takashi Osanai