INTERVIEW YUI HASEGAWA|マガジン|アルコ株式会社

負けず嫌いの天真爛漫。
今は守備が楽しくてたまらない!

「小さいころから当たり前に、サッカーが一番にあった」少女は今や、日本を、いや世界を代表する女子サッカー界のアイコンに成長。今年7月には“なでしこジャパン”の新キャプテンにも任命されるなど、まさに充実の時を迎えています。

そんな長谷川唯選手の根底に流れるサッカーへの愛情、そして「攻撃以上に守備が楽しい」と語る理由とは?貴重なオフシーズンに帰国した彼女の、内に秘めた本音に迫ります。

「たとえプロになれなくても、サッカーは続けていたはず」

サッカーを始めたきっかけは、3つ年上のお兄さんや少年団で指導者をしていたお父さんの影響。常にボールが身近にある環境で、長谷川選手はめきめきと実力を伸ばしていきました。

「兄とはよく対決をしていました。ボールを高く上げて、トラップのうまさを競ったり。兄も結構センスでプレーするタイプで上手なんですが、そのころから、“自分は持ってるな”という感覚はありました。一発勝負で勝てちゃうことも多かったんです。

公園の水道の上に置いたテニスボールを、サッカーボールで狙う。フェンスの網に空いた穴を通す。そういう我が家定番の遊びも、小さいころから兄といい勝負ができていたし。まあ、もし負けても私が勝つまで続けてもらっていたんで(笑)」

かなり負けず嫌いですか? と訊くと「はい、めちゃくちゃ!」と即答。では当時、憧れていた選手はいたのでしょうか。

「最初はロナウジーニョ。すごく楽しそうにプレーしますよね。当時はサッカーのコンテンツが今ほど充実していなかったので、ハイライトやプレー集の動画を頻繁に見ていました。

中学生になってからは(アンドレス・)イニエスタです。相手の逆をとるのがうまい彼らの動きは、眺めているだけでも面白い」

そんな名手たちが出場するワールドカップにも心を奪われながら「女子の世界との違いはわかっていませんでした」と語る長谷川選手は、こう続けます。

「幼心にふわっと、でも本気で、将来はサッカー選手になりたいと思っていました。具体的に道が見えてきたのは、(日テレ・)ベレーザの下部組織であるメ二ーナに入った中学生のころ。当時の選手たちが仕事をしながらプレーしているという仕組みを理解したうえで、それでもずっと続けたいと思ったんです」

1993年にはJリーグが開幕し、男子サッカー選手のプロ化が顕著に。一方、女子のプロリーグにあたるWEリーグ発足は2021年のこと。1997年生まれの長谷川選手は、女子サッカーの成熟を体感しつつ、その進化に貢献してきました。

「今は女子選手を取り巻く環境が変わっていますが、ありがたいことにその過程を全部見てきています。ただ、たとえプロ化していなくても、私はサッカーをしていたはず。これまで『辞めたい!』と思ったことは一度もないし、今もサッカーが純粋に楽しいから続けているというのが本音ですから」

「考えて、選択する。守備にはサッカーの面白さが凝縮されています」

現在は日本を離れ、イングランドでの4シーズン目を見据える28歳。昨季は年間最優秀ミッドフィルダー賞を受賞するなど、世界的な評価を高めています。そんな自身の強みについてはどう考えているのでしょう。

「う〜ん。簡単に言うと、予測・ポジショニング・運動量ですね。で、それらを一番活かせるのが守備だと思っています。もちろん攻撃も好きですし、チャンスも作らなきいけない。だけど個人的には、守備がすごく面白い。サッカーの楽しさが凝縮されている感じですね」

確かに、所属するマンチェスター・シティWFCでは主に中盤の舵取りを担うアンカーとして活躍鮮やかなインターセプトや、球際で粘り強くボールを奪取するシーンも少なくありません。

「1対1で自分がボールを奪うのも守備だし、コースを限定して後ろ(の選手)に取らせるのも守備。いろんなやり方があるなかで、考えて選択するのが面白いんですよ。アンカーの方が自分でボールを取る場面が多いから見ていてわかりやすいのかもしれませんが、どのポジションでも実は守備のほうが楽しいんです。例えば相手に寄せるタイミングとか前のポジションでも守備面で考えることがたくさんある。だから攻撃面での評価もありがたいけれど、本当は守備を褒めてもらったほうがうれしい」

となると、ディフェンダーとしてもプレーしてみたくなるのでは?そんな単純な問いかけにも、長谷川選手は真摯に答えてくれました。

「実際に私がセンターバックに入ったら、今の人たちとは違った強みが出せるイメージはありますでも、そのポジションはヘディングが強くて相手の足元にガツンと行ける選手が前提だから、自分には適性がない。だから結局、やらないほうがいいなって。サイドバックだと、やり方はちょっと違ってきて。前の人を動かしながら相手のボールを奪ったりとか、そこはできるかなと思ったりします」

“好き”に貪欲な一方、柔軟に物事と向き合う。長谷川選手の類稀な姿勢は、チームに大きな影響を与えるに十分。今年7月には女子日本代表の新キャプテンを務めることが発表され、さらなる期待が集まっています。

「マンチェスター・シティのテクニカルディレクターだったニルス(・ニールセン)がなでしこの新監督になって、彼が知っている選手は自分だけという状況でした。だから代表合宿で少し話した際に『ああ、これはキャプテンにされそうだな』という感覚はありましたね。正直、(キャプテンは)自分のキャラではないと思う。だけど、逆にいい経験だと思ってしっかり務めたいと考えています。自分が知っている歴代のキャプテンは、人間としても素晴らしい人ばっかり。澤(穂希)さん、宮間(あや)さん、(熊谷)紗希ちゃん。みんな周りから慕われて信頼がある選手なので、そういうところは受け継いでいきたいです。ただしあまり気負いすぎずに、今まで通りプレーで引っ張っていければと思います」

「結局、ストレスなく生活するのが一番です」

所属クラブで過酷なシーズンを戦い、代表活動にも参加。どちらかと言えば小柄な体格ゆえ、ほとんどの局面で自分より大きな選手と相対します。そんな長谷川選手にとって、身体のケアは何より大切。ケガの予防にもさぞ神経質になるかと思いきや?

「ならないですね。トレーニングはしっかりしていますが、海外だから意識や方法を変えたりはしていません。私、自分の身体の変化にちょっと鈍感でして……。敏感な人ほど『やらなきゃいけない』と思うことが多いようですが、私はそうならない。そのうえであまりケガもしないので、得な体質かもしれませんね」

なるほど。ではメンタル的な願掛けなど、試合前のルーティンは?

「そっちも、まったくないです。私が知っているサッカー選手のなかで、一番と言っていいくらい何も気にしてないタイプだと思います。普段から美味しいご飯を食べて、甘いものも気にせず食べて。太ったら考え直すかもしれませんが、ありがたいことに体質的に太らない。結局、ストレスなく生活するのが大切だと思います」

ある意味で羨ましいほどの“鈍感力”。ただし、サポートを受けるHypericeは日ごろから愛用し、その効果に全幅の信頼を寄せているようです。

「かなり以前から存在は知っていて、チームが所有するHypericeのギアを使っていました。特にお気に入りなのが、Hypersphere Goという振動する小さなボール。鈍感だからこそ気付きにくい筋肉の奥の方を刺激してくれるから、確実にケガの予防になっていると思います。Normatecシリーズは、試合後の必需品。このリカバリーブーツはジムに置いてあるチームも多くて、海外ではより頻繁に見かけますね」

2021年にイタリアのACミラン、同年夏からはイングランドのウェストハム・ユナイテッド。そして2022年から現在まではマンチェスター・シティと、名だたる女子クラブに籍を置く長谷川選手。そのなかで、意外な場面でも世界との差を感じたそう。

「外国の選手って、あまり試合前の準備をしないんです。みんな直前までロッカー前に座ったまま、スマホで音楽を聴いていたりして。それに比べると、日本の選手は入念に準備します。私もそうで、腰を温めるためにVenom 2 Backを巻きつけてロッカールームをうろうろしていることが多い。その姿が珍しいのか、とある選手には笑われたことも。でも、これにはちゃんと意味あるのよって(笑)」

「うまくいかなくて、修正して。上達を感じるのが楽しい」

現在、マンチェスター・シティWFCには5名の日本人選手が所属しています。最も所属歴が長い長谷川選手を中心に、切磋琢磨の毎日。時折り流れてくるクラブの映像からは、仲のいい様子が伺えます。

「年齢は上から二番目ですし、私がお姉さんキャラというわけじゃありません。相談があれば、簡単にアドバイスするくらいですね。でも、普段からみんなで集まってご飯を食べたりして。仲良くしてもらっています」

ご飯といえば、イギリスでの食生活についても。食が身体作りの基礎となるなかで、どんなふうに食事をとっているのでしょう。

「毎日自炊しています。基本的に和食ですね。そもそも、『イギリス料理って何?』って思っていて。外食で『野菜のグリル』を注文することもありますが、そんなに“レシピらしいレシピ”はないのかなって思っています。チームメイトは『ジャパニーズ大好き』とか言って、ちょっと変わったお寿司を食べてたりしていますよ。そういえば、昨シーズン末にひとりのスペイン人選手がお別れのタイミングで、自宅に招いて日本食をご馳走しました。お返しに、相手はチーズケーキを作ってくれたんです。彼女は箸も上手に使えて、すごく美味しいと言ってくれました」

最後に、今サッカー以外で一番興味あることは?と水を向けると、こんな回答が。

「この2年ほど、ゴルフをちょっとかじっています。兄が上手で、誘ってもらったのがきっかけです。なかなか思い通りにいかないけれど、自分なりに打ち方を修正してうまく飛んだりすると楽しいですね。スコアはまだ120前後ですが、やればやるほど上達する感覚があって。とはいえ限られたオフは普段会えない人と会ったりもしたいから、ゴルフばっかりにはなれないなと思います」

持ち前の向上心と好奇心を、遊びのシーンでもちらりと覗かせて。幼くしてサッカーに巡り合った少女は、心身ともに成長した今も、全力で運命のスポーツに打ち込んでいるのです。

 

Photo:Atsutomo Hino Text:Naoki Masuyama Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)