INTERVIEW MIWA OBA|マガジン|アルコ株式会社

スポーツクライミングから出発し、自然の岩にルートを見いだす“旅人”

その女性はあっという間に岩を攀(よ)じ登りました。高さ5mほどの垂直の壁。亀裂に指を差し込み、つま先で突起を探り、身体を貼り付けるようにして、するすると登っていきます。素人が見ても人間離れした動き。大場美和さん、プロクライマー。彼女はどのようにして、自然岩でのクライミングへと行き着いたのか。その経緯を聞きました。

“くじら岩”で待ち合わせ

長野県と山梨県の県境に位置する小川山。

自然の岩を登るクライマーたちにとってはあまりにも有名な山です。

西側山麓の目廻り平キャンプ場から山道を少し登ったところに、クライマーたちから“くじら岩”と呼ばれている岩があります。その名のとおり、鯨のように見える巨大な花崗岩。ここが大場美和さんとの待ち合わせ場所でした。

11月某日午前10時、気温は14度。小川山の稜線から冷たい風が吹き下ろし、葉を落としたミズナラの木立を鳴らします。普通に、自然の山。たまらず岩に身を寄せ風を除けていると、大場さんが現れました。

「おはようございます! 今日のくじら岩はクライマーさんが多いですね……ちょっと下って、別の岩に行ってみましょうか」

待ち合わせのカフェが混んでいたから、ほかに行こう。そんな街の会話のような調子です。そうか、大場さんにとって自然の岩場に行くことは、まさに普段の生活の一部なのか。そんなふうに妙に納得してしまいました。とはいえ、さすがに寒くないですか?

「実は、これからの季節がクライミングのトップシーズンなんですよ。岩が乾いて登りやすくなるんです。寒すぎると身体が固まってしまいますが、今日くらいの気温はベストですね」

かっこよさに打たれた少女

「クライミングを始めたきっかけは雑誌の記事です。天井のような傾斜の壁を登る女性の写真を見て。マヤ・ヴィドマー(スロベニア出身のクライマー)でした。見た瞬間、かっこいい!やりたい!と直感しました」

そのとき大場さんは9歳、小学校4年生でした。どうしてもやりたいと家族に話していたところ、お兄さんが名古屋のクライミングジムを見つけてくれたそう。「最初は家族全員でジムに行きました。そのとき、本当に楽しかったんです」。

実は大場さんは、小学校1年生から3年生まで器械体操に取り組んでいました。しかし腰を痛めて断念。そんな折にスポーツクライミングに出会ったというわけです。その後、名古屋市のジムから安城市のジムへ。日に日にクライミングに夢中になっていったそうです。

「最初から結構登れるほうだったと思います。クライミングジム主催の“草コンペ”はわりと開催されていて、始めの頃はその出場を目指していました。ユース公式戦に出場できるのは11歳もしくは12歳から(当時の規定)だったので、それまでは草コンペで腕を磨くんです」

満を持してJFAユース選手権(リード種目)に初出場した2010年に、3位入賞を果たします。翌11年には同選手権優勝、JOCジュニアオリンピック大会で優勝。屋内で行うスポーツクライミングの新星として脚光を浴びました。

スポーツクライミングには3種目あります。高さ15mの壁を登る速さを競う「スピード」、制限時間内に高さ12m以上の壁のどの地点まで登れるかを競う「リード」、高さ3~5mのホールドが設置された壁を少ないトライ数で登り切る「ボルダリング」。

大場さんは主に「リード」と「ボルダリング」を主戦場とし、地元の愛知県岡崎市でスポーツクライミングを続けました。

「その後進学を機に、横浜に引っ越して一人暮らしを始めました。そこで安城市のジムから、小山田大さんが主催する横浜市のジム『プロジェクト』に通い始めたんです」

小山田大さんを知らないクライマーはいません。2000年代に国内、海外の数々の最難関ルートを初登。もちろん今も現役で、世界中のクライマーたちからリスペクトされている存在です。

「実は小学生の頃から小山田さんのスクールに参加したりして、交流があったんですよ。クライミングツアーにも同行したり。『プロジェクト』には今も通っていて、インストラクターとして子供たちにも教えています」

大場さんは16歳からワールドカップに参戦し、屋内スポーツクライミングの選手として文字通り世界で戦い続けました。ところが18歳のときに屋内競技から退き、自然の岩と対峙する原初のクライミングへと傾倒していきます。その理由とは何だったのでしょうか。

クライマーとしての第二章

「スポーツクライミングから転向した理由は大きく言うと2つ。ひとつは、競技選手として結果が出なかったこと。もうひとつは、クライミングのルーツである自然岩への憧れです。そして実際に岩に登ってみて『クライミングというものは、これほど広い世界だったんだ』と気付いたんです」

クライミングとは何か。

それは「スポーツクライミングからアルパインスタイルの登山まで、幅広いグラデーションを持った概念のようなもの」と大場さんは言います。

「もしクライミングが室内競技だけのものだったら、そこでクライミングそのものを辞めていたかもしれません。でも、クライミングは奥深く広かった。明確に定義できないところにも、魅力を感じます」

具体的に大場さんが今取り組んでいるのは、ボルダリング(最小限の道具を使用)、リード(安全のためのロープを使用)、マルチピッチクライミング(ロープや道具を使用した長い距離の登攀)。いずれも自然の岩がフィールドです。

「マルチピッチでは、今まではボルトなどの人工物が残った壁を登っていました。でもこれからは、人工物のない『ナチュラルプロテクション』で登りたいと思っています。それからまだ誰も登っていない、初登ルートの開拓も続けていきたいですね。

人によってそれぞれスタイルがあって、それを認め合うことができる。クライミングの魅力は何かと聞かれたら、これが答えなのかもしれません。登っているときの充実感、登り切ったときの達成感もすごいものがありますが……私の言葉で言えば、多様性こそクライミングの魅力だと思います」

文字にすると難解なことのようですが、実際に語る大場さんは実に自然体なのでした。肩の力が抜けているにもかかわらず、その言葉には多層的な意味が込められています。

そしてそれは、今朝私たちが目にした、彼女のクライミングととてもよく似ていると感じました。ルートを見極め、手足を操り、岩に意志を刻む。でも外から見ればとてもリラックスしていて、どこか旅人のような、飄々とした佇まいだったのです。

「今はあらゆる技術を身につけて、あらゆる場面に対応できるクライマーになりたい。最終目標は、胸を張って『私はクライマーです』と言うことです」

スポーツクライミングを経て、大場さんのクライミングは第二章へと進みました。これからの彼女の新しい旅路に、私たちも注目していきたいと思います。

「実はコーヒーがめっちゃ好きなんです」

プロクライマーとして自然の岩に挑戦し続ける大場美和さん。

自身のクライミングに対する思いを丁寧な言葉で語ってくれました。

さて後編は、Hydro Flask®(ハイドロフラスク)をはじめとする愛用品についてのコメントを。

Hydro FlaskのボトルやOXO Outdoor™(オクソアウトドア)の包丁が、

大場さんのライフスタイルに欠かせない存在となっているようです。

「Hydro Flaskのボトルを使い始めたのは(2023年)6月頃。シーズンオフだった(クライミングのトップシーズンは真冬を除く秋~春)ので岩場には持っていきませんでしたが、通っている横浜のジムで毎日使っていました。

コーヒーを凍らせて氷にして、ミルクを注ぎます。でもそれだと保冷性が良すぎてコーヒーが溶けない(笑)。熱いコーヒーをちょっとだけ注ぐのがポイントです。もちろん冬は温かいコーヒーを入れて」

Hydro Flaskは使って半年とのことですが、なかなかのこだわりようです。というよりも、コーヒー自体にこだわりがある?

「はい、実は。がっつり苦味があるタイプが好みです。地元の横浜にすごくいいビーンズショップさんがあって、いつもそこで買っています。挽きは若干粗めで、焙煎はおまかせです。質が良くてリーズナブルなんです」

そのお店は「Yokohama Mameya」。伊勢佐木町に本店があります。豆の販売はもちろんお店でコーヒーを味わうこともできるので、お近くの方はぜひチェックしてみては。

「Hydro Flaskは見た目ももちろん好き。カラーバリエーションも、すごく気に入ってます。凹凸の少ないこの形もいいんですよ。クライミングの道具と一緒にリュックにパッキングするのですが……他の荷物に引っかからないからぐいぐい押し込める(笑)」

「家にいるときはほとんど自炊」だという大場さんは、OXO Outdoorの「サントクナイフ」もお気に入り。ただしこのカバー付きナイフは、アウトドア用として重宝しているとか。

「最近始めたキャンプの相棒です。使いやすいサイズで、持ち歩きに安心なカバー付きというのがよくて。グレーと赤の配色も気に入ってます。

OXOは持ち手に洗剤が入れられるブラシ(「ワンプッシュ クリーニングブラシ 」)も持っています。ボタンを押すとちょこっと洗剤が出て、そのまま洗える。これが本当に便利なんですよ」

始めたばかりのキャンプですが、これからクライミングと組み合わせていこうという目論見も。

「キャンプでテントを張って、翌朝そのままクライミングに行けばいいと気付きました。私、朝起きるのが結構苦手なんですよ。岩場にいちばん近いキャンプ場にいれば、その分長く寝ていられるなと(笑)」

そんな自然の岩場のルート確認に役立つのが双眼鏡です。Nocs Provisions(ノックス プロビジョンズ)は、2023年10月に日本初上陸を果たしたサンフランシスコ生まれのブランド。大場さん、かなり気に入っている模様です。

「外ではもちろん、屋内競技でも双眼鏡を使うことはあります。でもこんなデザインの双眼鏡は今まで見たことがなかったですよね。色も形もとにかくかわいくて。 それに、ストラップがめっちゃイケてるんですよ。Hydro FlaskもOXO Outdoorもそうなのですが、見た目と使い勝手の両方がいいんです。本当のアウトドア好きが作ってるんだろうと、伝わってくるものがあるんですよね」

 

Photo: Kengo Shimizu Text: Tomoshige Kase Edit: Toshiki Ebe(ebeWork)