Hello Chris! Nocs Provisions CEOインタビュー
スタイリッシュかつ本格派の工学製品ブランドNocs ProvisionsのCEOクリス・マクロイにオンラインインタビューを実施。日本から約8400km離れたアメリカ・カリフォルニア州、レイクタホ地方の標高2000mにある一軒家に住むクリスは、シーズン真っ只中のパウダースノーを滑り倒したあとにインタビューに答えてくれた。
ブランドの成り立ちやこれまでのエピソードについて。

Q:まず、Nocsを始めようと思った理由を教えてくれるかな?
親友が音楽フェスティバルから帰ってきたとき、双眼鏡があったらいいのにと話したのがきっかけ。僕は、ほかの双眼鏡ブランドや製品をリサーチし始めたんだけれど、それらは非常に単調で、製品内容もややわかりにくいものばかりだった。サーフトリップや野生動物の観察、そのほかの楽しいことに使えるクールな双眼鏡が欲しくなってね。僕が持っているカリフォルニア・アウトドアの価値観に合うブランドを目指して製品をデザインする「アート・プロジェクト」としてNocsを始めたんだ。
Q:Chrisがひとりで始めたブランドなの?
僕は別の仕事をしていて、その本業のあとにデザインプロジェクトとしてブランドを始めたんだ。初期のプロトタイプ制作やデザインは親しい友人と一緒に行なっていたんだよ。会社を設立することよりも、自分が誇りに思える製品を作ることが当初の目的だったんだ。
Q:「双眼鏡」でビジネスをするって、不安じゃなかった?
バードウォッチング用の双眼鏡やハンティング用の双眼鏡と競合するのではなく、サーフショップやライフスタイル・アウトドアショップで販売できるものを作ろうと考えていたから、双眼鏡ビジネスに参入することに不安はなかった。そのカテゴリーにまだ余白があるように思えたからね。若い現代のナチュラリストにとって有意義な製品を作るという目標があったからさ。
Q:アウトドアにはたくさんのギアが必要だけれど、なぜ光学製品にしようと思ったの?
光学製品は何世紀も前から存在し、革新的な人たちがアウトドアアクティビティで使ってきたものだろ?現代の若い人たちがアウトドア活動にふさわしい美的感覚にマッチする双眼鏡や双眼鏡ブランドがなぜ存在しないのかという疑問があったんだ。そんなアウトドア用光学製品をデザインすることで、アラスカでの川下り、ノースショアでの波チェック、バックパッキングやハイキングでの人里離れた場所での野生動物探しなど、さまざまなアクティビティで僕たちの双眼鏡をはじめとした光学機器が使用されるのを目の当たりにできると思ったんだ。


Q:20回の試作品を作ったと聞いたけれど、なぜそんなに回数を重ねたんだい?難しかった点はどこだった?
製品の開発は、光学の世界から完全に離れたところからインスピレーションを得たんだ。ヴィンテージのBMXのハンドルグリップ、モダンアート、現代的な素材といったものから。それらを、光学機器に盛り込むデザインプロセスは挑戦的だったと思うよ。前例がないアイテムだったから、革新的で商業的にも成立する製品をデザインしなければならなかった。そういう点でこのデザインはアートプロジェクトに近いものだったから、何度も試作したのさ。
難しさは、ジェット成形金型による凹凸の設計だね。ジェット成形部品は均一に乾燥させる必要があるため、3Dプリンターでサンプルを作るよりも格段に難しく、安定した量産に苦労したんだ。製品を生産できるようになるまでには、何カ月もの設計の繰り返しが必要だったね。
Q:製品の配色が個性的で素敵だね。どんなアイデアだったの?
僕は、カラフルでモダンなBluetoothスピーカーを作る会社を2010年にカリフォルニアで友人と設立したキャリアがあるんだ。とても退屈で、単調な見た目で、過度に技術的だったスピーカーを、楽しいライフスタイル・ブランドに変えたくて。これととてもよく似た手法を双眼鏡に応用したのがNocsだから、製品に楽しい色を使うことは自然なことだよね。
Q:製品のデザインは、彫刻家のフランク・ステラにインスパイアされたと聞いたけれど。その経緯を教えてくれるかな。
20代前半のころサンフランシスコに住んでいたとき、シーズンパスを持っていて近代美術館(SFMOMA)に通っていたときにフランク・ステラに出会ったんだ。双眼鏡をデザインすることになったとき、ヴィンテージのBMXのハンドルグリップとともに、フランク・ステラのリトグラフの線画からインスピレーションを得たんだ。
Q:会社としてユニークな企画やアクティビティ、イベントはある?
バードウォッチングのイベントをもっと増やしたいと思っているんだ。それはとても身近で、どんな環境でも行うことができるからね。このようなバードウォッチング・イベントを開催することで、多くの未経験者にそれがどのようなものかを知ってもらうことができるから。なにより複雑で大掛かりな道具やトレーニングを必要としないのが、バードウォッチングのいいところさ。


Q:これから作ってみたいプロダクトはある?
大胆なセンスを忘れずに工学製品を作り続けながら、僕たちが描くライフスタイルを補完するアクセサリーやアパレルを作りたいと考えているよ。

Q:Nocsの目標とビジョンを教えてくれるかな?
Nocsのゴールは、現代のナチュラリストが自然とのつながりを大切にし、好奇心を育み、自然界とのつながりを生み出すためのツールを作ること。最終的には、自然界とのつながりを感じる人が増えれば増えるほど、この非常に複雑な時代に、自然環境に対してより良い形で貢献し、その維持や保全につながると信じている。Nocsは、長持ちする製品を作り、プラスチックフリーのパッケージを使用することでCO₂排出量削減に務め、人々が自然の中でいい存在感を発揮できる活動団体を支援しています。それがブランドとしての責任なんだ。

Q:クリスはカリフォルニアで生まれ育ったの?
サンフランシスコで生まれ、シリコンバレーで育ったんだ。週末は今も住んでいるタホ湖にある家族のキャビンで過ごしていたよ。
Q:今はどこに住んでいるの?
現在はタホ湖のアルパインメドウズに住んでいる。祖父が、アルパインメドウズがスキーリゾートや居住地として確立される初期の段階に関わっていて、とても深い縁を感じているんだ。この地域が好きな点は、西海岸の海ともネバダ州の広大な砂漠ともつながっているところ。タホ湖にはまだ見果てぬ美しい自然の小宇宙がたくさん存在していると思うんだ。



Q:Instagramではサーフィン、スキー、MTBを楽しんでいる写真をアップしているけれど、それぞれいつ始めたの?
ありがたいことに、僕のファミリーは僕が生まれる前からアウトドアに関わっていたんだ。父は熱心なスキーヤーでありサイクリスト。そんな環境だったから、僕はスキーは3歳から、マウンテンバイクは6歳から始めたんだ。ロサンゼルスの大学に進学してからは、海でボディサーフィンをすることが多く、それがきっかけで20代からサーフィンに熱中するようになったのさ。
Q:普段はどんなところでアクティビティをしているの?
サンフランシスコで仕事をしていたころは、オーシャン・ビーチから1ブロックのところに住んでいたんだ。そこから歩いて通りを渡れば、サーフィンに行けたんだよ!ゴールデンゲート・パークはアメリカでも最大級の都市型公園で、マウンテンバイクで走るためのトレイルや設備がたくさんあったし、ゴールデンゲート・パークの反対側にはサトロマウンテンという小さな山があってトレイルが整備されていたから、そこで自転車に乗ったり、コーヒーを淹れたり、自然探索をしていたよ。Nocsの拠点となるレイク・タホは、オフィスから5分のところにトレイルがあるんだ。このトレイルは広大で非常に質が高いから、僕たちはチームミーティングの多くをそこでしている。さらに、冬にはアルパイン・メドウズでスキーをするんだけれど、日によっては山頂からオフィスまでを滑っていけるんだ。職場の近くにレクリエーションスポットがあるのはとてもいいことだよね。
Q:影響を受けたアクティビティのヒーローは誰?
これらの活動のきっかけとなったヒーローは、間違いなく父。幼い頃から始めることができて、現在もこれらの活動をずっと高いレベルで実践できていることにとても感謝しているよ。
Q:それぞれのアクティビティで好きな写真集や本、映像作品などはある?
ZINEカルチャーがとても好き。今いちばん好きなのは、ベイエリアのオルタナティブ・サイクリングを記録した「CALLING IN SICK」。「Mountain Gazette」も好きで、アウトドアに関する興味深いトピックをたくさん取り上げているとても深い雑誌なんだ。


Q:愛用のギアのことを教えてもらえるかな?
現在お気に入りの道具は、アルマダのスキー板とノルコのマウンテンバイク。フルパワーのeバイクに乗るのは本当に楽しいんだ。また、ビッグアグネスのキャンプギアの大ファンで、バイクパッキングの旅で使っているよ。スノーピークのようなブランドは、その美しさとシンプルな機能性からとても尊敬しているね。


Q:ブランドのメンバーと旅やアクティビティを一緒にすることはある?
オフィスの近くでバードウォッチングをするのが好き。マーケティング・マネージャーのジャクソンは、チームのために積極的にイベントを企画してくれているよ。
Q:好きな音楽は? どんなアーティスト、どんなジャンル?
フォーク・サイケデリック・ロックからベース主体のエレクトロニック・ミュージックまで、たくさんの音楽を聴いているよ。NTSラジオ(オンラインのラジオプラットフォーム)は、Nocsが始まった当初、新しい音楽や新しいアーティストを発見する手段として愛用していたね。


Q:愛車について教えてくれるかな?
現在はフォードF150ライトニングに乗っている。このトラックは大型バッテリーを搭載しているからキャンプにも最適。その前は、2009年にフォードのエスケープ・ハイブリッドに乗っていて、走行距離は26万5000マイルを超えていたよ。
Q:カリフォルニアはたくさんのアウトドアスポーツのブランドやギア、ヒーローがいるけれど、なぜカリフォルニアから生まれてくると思う??
生粋のカリフォルニア人である僕にとって、この文化は当たり前のものだから、この質問は興味深いね。カリフォルニアには物事を受け入れる開放的な姿勢と好奇心が大衆レベルまで浸透している。だから、新しいことに挑戦しようとする大胆で勢いがある人々が生まれるんだと思う。そして、すべてがうまくいくわけではないし、たとえうまくいかなくても、新しいことに挑戦する人を受け入れる風土があるんだ。それは、アメリカの他のエリアやヨーロッパ、アジアを訪ねたときにそうした違いを実感できたね。


Q:人生にアウトドアスポーツがあることで、どんなメリットがある?
仕事でPC画面を見ている時間が長い僕にとって、アウトドアスポーツはとても重要なもの。運動ができるのはもちろんだけれど、ハイキング、サイクリング、スキーをしている瞬間はまるで風景画のような美しい世界の中で生きられるからね。アウトドアスポーツで目にする美しさは、私たちが生活の中で目にするほかのどんな美しさにもかなわない。この自然の美しさとのつながりをさらに深めるための光学ツールを作っていることを、僕はとても誇りに思っているよ。
Text&Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)