勝者のメンタリティを追い求め続けて 酒井高徳インタビュー Part 2|マガジン|アルコ株式会社

勝者のメンタリティを追い求め続けて
酒井高徳インタビュー Part 2

2024年には、Jリーグ二連覇を遂げて同年に天皇杯も獲得。ACLEの常連にもなり、今や強豪と呼ぶにふさわしい存在とヴィッセル神戸。その躍進の大立者のひとりともいわれる酒井高徳選手が、チームを鼓舞してきた背景についても話を聞きました。

ヴィッセル神戸で自分がやるべき使命

――かつては、“エレベータークラブ”(上位リーグと下位リーグの移動を繰り返しているというチーム)とも揶揄されていたヴィッセル神戸ですが、ここ数年の躍進には眼を見張るものがあります。実力主義で張り詰めて過ごしたドイツの8年間を、日本に還元させるという意識が強かったのですか。

「僕が日本に戻ってきたのは、まだ残留争いの常連だったころ。クラブにおいて勝者としてのメンタリティや勝利へのフィロソフィをこのチームに落とし込むための体現者になる、という使命で臨みました。

チームの考え方やあり方を変えないといけない、ということは当時チームメイトだった山口蛍(現Vファーレン長崎所属)とかともよく話していました」

――ダビド・ビジャやルーカス・ポドルスキーなどといった世界的な選手が入れ替わり在籍していましたね。のちにはアンドレス・イニエスタという大スターも所属していました。それでも大変だったのですね。

「彼らは一流の選手ですが、“伝える役”ではない。世界基準のプレーというものを日本語で、チーム全員に伝えていく役目は自分しかできないと思っていたんです。
山口とは、試合に出ている日本人選手のクオリティをとにかく上げようと話していました。だから、僕らはコンディションをキープして、スタメンで出続ける必要がありました。そうじゃないやつの言うことなんて誰も聞いてくれませんからね」

――となると、悪役になることも多かったのではないですか?

「悪役でしたね(笑)。メッセージ性が強いことをあえて言葉を選んで伝えていました。言い方やタイミングは気をつけましたが、それでもトゲはあったと思います。ときには耳の痛い話があったかもしれませんが、伝えないと変わらない。若い選手も多かったですし、嫌な先輩と思われたかもしれませんね。今だったら、大迫(勇也)や武藤(嘉紀)もいるので、心強いですが、当時は、僕と山口くらいでしたから」

 

 


Jリーグ初優勝という偉業の裏に

――クラブとして大きかったのは、やはり2023年のJリーグ初制覇だったと思います。酒井選手の使命が、ひとつ結果として実ったのではないでしょうか。

「仲間たちが僕らの言葉を受け入れてくれたことが、大きかったと思います。言うだけなら、言っておしまい。その先の変化は、言葉を受け取った本人たちがやるかやらないか、です。ここまで結果を残せたのは、変わった選手自身の努力の結果だと思います」

――さきほど、日本人選手のクオリティを高めるとありましたが、何が変化をもたらしたのですか?

「海外とも違って、JリーグはJリーグで勝つのが難しいリーグではあるんです。どうしたら勝てるのかに関しては、自分たちも苦労した部分ではありました。これという解決法があるわけではありません。

海外の強豪とも対戦してきた自分自身の経験を、代表歴がなく、Jリーグの経験しかないような選手たちにどう伝えていくのか。そこに心血は注いできた感覚はありますね。

今の神戸があるのも、今の選手たちが頑張っているから。そしてそれを勝ち取ったのも彼ら自身の実力。そこに到達できたのは、“みんながギラギラしないと、神戸の強さは続かない”ってことを、海外リーグ経験者たちが口を酸っぱく言い続けたことをみんなが受け入れて行動に移してくれたことに尽きるのかなと思います」

――何事も継続なんですね。そのなかでターニングポイントがあるとしたらいつ頃ですか?

「僕が神戸に入団してすぐの2019年に天皇杯を獲って、2020年にはACLに出場し、2021年にはクラブ初のリーグ3位で終わります。が、2022年には残留争いに巻き込まれるほどに低迷したんです。実は僕はこの間も、俺たちはまだ強くなっていない”ということをチームに発信し続けていました。

シーズン初期の連敗中、“次があるから大丈夫、切り替えて次”と言っていても全然勝利はついてこない。あるとき、僕は言ったんです。“次はいつくるんだ、次なんかないんだよ、今やるしかない”というメッセージを爆発させたんですね。ハンブルグでさまざまな経験をしてきた僕からすると、甘すぎると。プレッシャーなくサッカーしてたら何の意味もないと」

――そのあたりから、チームは変わったんですね。

「勝つことの大事さというのは、降格の危機を感じることでより感じられたんじゃないかと思います。サッカーをプレイしていて、負けて“いい”なんてことないじゃないですか。勝つことが正義。勝てば僕らもハッピーですし、クラブもハッピー、もちろんサポーターもハッピーになりますから。前任の吉田孝之監督時代から、今のスキッベ監督になっても変わらずに取り組んでいます」

――世界の経験を知っている選手たちが、勝つことに対してギラギラし続けてきた結果、今の“強豪・ヴィッセル神戸”に繋がっているのでしょうね。

結局は、“勝者のメンタリティ”

――偶然の結果がもたらすスポーツの勝敗ですが、それでも“常勝”と呼ばれるチームがあります。勝ち負けの差というものは、どういうところに現れるんでしょうか?

「その命題は、実はドイツ時代からずっと考えていることでもあるんです。ブンデスリーガを2012-13シーズンから三連覇した、超強かったバイエルン ミュンヘンと戦っているんですが、勝利はおろか、引き分けすらできませんでした。1度も。0-0で終われたら最高、と言う状態。

彼らは何で強いのか、あれこれ考えてみたんですが、結局は、“勝者のメンタリティ”という言葉しかないのかな、と思っています。

もちろん選手がスーパーだということともあるんですが、それ以前にクラブが備えている“負けられない”という伝統。そのクラブに所属する人は皆、育成時代の選手からスタッフに至るまで、深い意識レベルで共有されているような気がしているんです。

戦術の話はあれこれありますが、それで説明がつかない勝敗ってあるじゃないですか。だから、日々の練習から積み重ねられているものというのが、どう考えても重要なのかなと思っています。

だからこそ、普段から言うんですが、勝つ確率を1%でも上げるために、個人ができることする。その日々の積み重ねがクラブのフィロソフィーになっていくのでしょうね」

――なるほど。勝利へのマインドセットは一朝一夕にはならずと。

「勝利が当たり前と言う状態にようやくなってきたところですね。リーグ優勝はもちろんですが、ACLEにも当然のように出場し続けることも大事です。結果を出し続けることにこだわって、それを継続していく。

ここ数年は、勝率も上がっていますし、タイトルも複数獲得して、結果もついてきています。それが成功体験となってチームや選手たちにいい相乗効果をもたらしているんだと感じています」

――いろいろと世界の舞台で高みを見てきた酒井選手のサッカー選手としてのゴールはどこにありますか?

「自分は、妥協は許さないタイプ。選手として体が動く限りはとにかくスタメンをほかの選手に譲るつもりはないですね。ポジションは奪いに来い、というスタンスです。

選手を“続ける”ことがゴールではないので、何かをおろそかにしなければ続けられないようなら、もうきっぱりと辞めます。選手として向上したい、勝ちたい、良くなりたいという気持ちがなくなったら選手としては終わりでしょうから」

――勝利に燃えるギラギラとした姿をピッチ上で体現する酒井高徳選手。今後の活躍もますます楽しみです。