INTERVIEW Vol.10

村田諒トレイルランナー

夢中になる日々の過程に、人生を豊かにするすべてが詰まっている。

村田諒さんは、国内外のさまざまな大会で上位に顔を出す実力を持つ、いま注目のトレイルランナーのひとりだ。

オフィスにおけるさまざまな事務作業を、
オンラインでバックアップするサービスを運営する会社で執行役員を務める傍ら、
3年ほど前から東京・高尾に自宅を移し、日々トレーニングを重ねている。

「毎日、ランニングのことばかり考えています」と笑う、彼のライフスタイルをのぞいてみよう。

ランニングがライフスタイルの中心にある

「毎朝7時くらいに起床して、10分くらいで準備をして、1時間くらい走って、
戻ってきたらシャワーを浴びて、朝食を食べて、9時くらいから自宅で始業です。

12時から13時まで昼食。その後、19時くらいまでに仕事を終えて、また走りに行きます。

夕食を食べて、22時か23時には寝る。平日は、こんな感じです」。

これが村田諒さんのライフワークだ。

仕事柄、コロナ禍よりもずっと前から、リモートワークを実践。
たまに海外へ旅行やレースに行くこともあったが、いまの状況下ではそれもない。

「仕事で都心に出ることもほとんどないんです。
それこそ、ランニング仲間と一緒にトレーニングする時くらい。
高尾にいて、不便を感じることはありません」。

と、走ることが完全に生活の中心になっている。

「『この時間に走りに行きたいから、それまでにこの仕事を終わらせる』という具合に、メリハリがつけやすい。
1カ月単位で、自分のしたいことと、仕事とのスケジュールバランスをマネージメントすることが、日常の当たり前になっていると思いますね」。

どうすれば速くなれるかを追い求めてきた

そんな彼がランニングと出合ったのは、ハタチの時。
大学1年の時にインターンをしていた縁で入社した、IT系の企業で働き始めたことがキッカケとなる。

「いまはそんなことないと思いますけど、当時のスタートアップ企業はかなりハードワークというか。
デスク脇にスナック菓子を置いて、夜中までカチカチ、パソコンに向かってる人ばかり。
ようするに、不摂生な人が多かったんですね。
そんな光景を見て、10年後の自分を想像した時に、『こうはなりなくないなあ』と思って、走り始めたんです」。

当初はIT系の職種の人たちで構成されたランニングチームに入って、仕事の前後に公園を走るようなことから始まった。
続けていると、割とすぐに成果が出始める。

「最初は5分/kmペースで入っていたのが、1カ月後には10秒、20秒と速くなっていく。
そういう成長実感が、数字で表れるところが一番楽しかった」。

生活習慣の改善を目的に始めたランニングから、速さを求めるランニングへ徐々にシフトしていった。

とはいえ、仕事は忙しい。さらには千葉から渋谷のオフィスまでの通勤にも時間を取られてしまう。
そこで、走り始めてから1年も経たないうちに、都内屈指のランニングエリアである駒沢公園近くに引っ越した。
通勤も走っていけるような距離になって、走る時間も距離も自ずと増えていった。

翌年の秋には、なんとサブ3(フルマラソン3時間切り)を達成。
それでも本人曰く、「いま思えば、そこまで真剣にはやってなかったと思います」。

一般ランナーの上位数%しか達成できないとされるサブ3を成し遂げながらも、どこか物足りなさを感じていた村田さん。
そんな彼の気持ちを動かしたのが、トレイルランニングだった。

「ロードの練習の合間に遊び感覚でやっていたトレランを、しっかりやりたいと思うようになりました。
そこでまず『ランボーイ・ランガールズ』(東京・神田のランニングショップ)がやっている『岩本町トレイルランニングクラブ』に入って、
トレランの大会に積極的に参加するようになっていったんです」。

次第に上位入賞できるようになると、『もっと本気でやったら違う世界が見れるかも』と、
トレランの世界でもまた、純粋に上を目指したいと思うようになっていく。

「その時はフルリモートの会社に転職していて、どこにいても仕事ができる生活スタイルができていたし、
結婚をして2人で住む場所を考えるタイミングでもあったので、トレイルがすぐそばにある高尾に引っ越すことを決めました」。

走る練習だけがランニングのすべてではない

ランナーとして、いまの彼の目標は、UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)にあるという。
トレイルランニングの世界で最もメジャーな、100マイルレースだ。
そこで表彰台に上がるために、自ら課した課題に取り組んでいる。

「ニュージーランドで開催された100マイルレースに出て、結果4位だったんです。
自分の中では結構走れたと思っているんですけど、実際はそのレースでトップになった選手と150分以上、差があったんですよね。
そうなると、ベースの走力がないと、太刀打ちできないなと。
そこでいまは、トラックを走ってスピードをつけるトレーニングを積んでいます。
この状況下でトレランの大会も減っていますしね。
1500mとか5000mという短い距離で、トップの人たちに負けない走力をつけることが、現在の課題です」。

目標に向かってコツコツやることは、苦ではないという。
むしろそうする以外に、勝つ方法はないと、自分を客観視する冷静さも持っている。

「ランニングってシンプルですよね。
でも単純に走るだけじゃなくて、練習メニューの組み立てや体のケア、食事や睡眠など、
普段の生活の中にもパフォーマンスを見直す余地がたくさんあるんです。
改善ポイントを突き詰めていく作業が楽しいんですよ」。

ランナーの日常は、自分の体と向き合う日々の積み重ねでもある。

「だから体調を崩さなくなりましたよね。
寝込んじゃってやりたいことができない、みたいなことは、社会人になってからほぼありません。
メンタルを含めて体調に波がないことは、仕事や普段の生活にもいい影響を与えてくれていると思います。
気分の浮き沈みが激しいと、周りも自分も疲れちゃうし、パフォーマンスもブレる。
だからいつも淡々と。そういうこともランニングにおいて、というか、100マイルレースを走る上で大事だから」。

速くなりたい、強くなりたいと、ランニングにのめり込む日々。
一見すると偏っているかのように見えるその熱量が、結局は彼のライフスタイル全体に好循環をもたらしている。

村田諒という、ひとりの人間を高めるための手段が、たまたまランニングだっただけなのだ。
夢中になれる何かを持っている人って、やっぱり強いなあ。

目標に向かってコツコツやること。
そうする以外に、勝つ方法はない。

村田諒

1992年生まれ。千葉県出身。2014年からランニングを始め、翌年にはサブ3を達成。
その後、メインフィールドをトレランに移し、国内、海外問わず、さまざまなレースに参戦。
現在は、株式会社キャスターで執行役員を務める傍ら、自宅のある高尾を拠点に、トレーニングに励んでいる。
主な戦績は、CAMERON ULTRA-TRAIL 100km(2019)優勝。
Tarawera Ultramarathon 100mile(2020)4位など。

  • Photo: Akane Watanabe
  • Edit&Text: Soichi Toyama

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