2024.1.19

INTERVIEW Vol.28(前編)

種子島ビーチクリーンとおせっかいな気持ち

ラジオDJ、アクションスポーツ実況、CMナレーション、イベントMC…。
「声の人」nico(ニコ)さんの姿・風貌を知らなくても、
独特のテナーボイスに聞き覚えがある人もいるはずです。
そんなnicoさん、趣味のサーフィンの繋がりから
プロサーフコンテスト・ツアーの実況を務めることとなり、
訪れた種子島で、とある気づきを得ました。
そこから試験的に行ったユニークなビーチクリーン運動とは?
しだいに大きくなっていきそうなアツい声に耳を傾けてみました。

まず種子島との出会いと印象を教えてください。

nico/2018年にABEMA(アベマ・動画ストリーミングTV)によるJPSA(日本プロサーフィン連盟)の実況中継で初めて種子島を訪れました。
波のクオリティと景観の素晴らしさに勝手ながらポテンシャルを感じて、もっと注目されていい島だな、って思いました。

その後も種子島へは行かれたのですか?

nico/2019年も同じ仕事で種子島を訪れました。
翌年以降はコロナウイルス感染症の関係で残念ながら大会は中止となって。
ツアーが再開された2023年4月に3度目の訪問となりました。
実況の間にコンテスト会場から少し目を逸らすと、沿岸に漂着したゴミが意外と多いことが気になりました。
「あれ、こんなにゴミがあったかな?」って。
白砂のビーチ、南国を感じられる透明感のある海水、でっかいスケール感のある景色、
そういったアイランドイメージとのギャップが大きかったからかもしれません。

その光景を見て何かアクションをしようという気持ちになったのですね?

nico/はい。2022年から千葉の御宿海岸で平日のビーチクリーン活動を企画して定例化させていました。
ビーチクリーンって週末や祝日に行われることが多いじゃないですか。
でも、僕は土曜、日曜の早朝に生放送のラジオ番組のナビゲーターを務めていて
ビーチクリーンに参加ができなくてやきもきした気分が続いていて…。
「だったら、自分で企画してしまおう」と、2023年末までに10回のビーチクリーンを実施して、
地元の方や番組リスナーの方、週末に参加できない仲間が中心に集まりました。

ビーチクリーンへの意識は以前から?

nico/いや、ずいぶん大人になってからです。
東京で生まれ育った僕は10代の頃に先輩にスケートボードを教えてもらって、
流れでサーフィンに連れていってもらうようになりました。
初めて連れて行ってもらい、その後も通い続けたポイントが御宿海岸だったんです。
その後、サーフィンにハマっていろいろな海を訪ねました。
それこそ19歳のときにオーストラリアに、20代のときはサンディエゴのラホヤ、
フロリダのココアビーチに近いマリッドアイランドへ“サーフィン遊学“もして、とにかく「俺が楽しむ」ことで精一杯。
御宿海岸も今では想像もできないほど賑わっていて、チャラチャラした雰囲気もあって(笑)。
でも、年を重ね、おじさんになってきて……、なぜですかね?
感謝の気持ちとか尊敬の念みたいなものが強くなってきて、
「自分だけがいい思いをさせてもらっているのもどうなのかな」って思うようになりまして(笑)。
自分がお世話になった場所で何か恩返しをしたいと思い立って御宿でのビーチクリーン活動を始めました。

今回の種子島ビーチクリーン企画「SAVE THE SEED」への理解と協力をしてくれたローカルサーファーの皆さん。
その中心人物となってくれた高田健剛さん(写真右)、エキシビションにも参加してくれたプロサーファーの須田喬士郎さん(写真中)、ピースな雰囲気のローカルサーファーくん(写真左)。

その流れから、種子島でのビーチクリーンに繋がったのですか?

nico/はい。まず御宿海岸でビーチクリーンを始めるにあたって、役場に直接連絡をしたことで、
実施方法やゴミの処分方法について、そして市町村や県での管轄の違いなどを知ることができました。
そして、地元の方の理解と協力を得なければスムースな活動はできません。
そこで、実況の仕事で出会った松永兄弟(御宿在住でワールドワイドに活躍する松永大輝プロ、松永莉奈プロ、松永健新プロ)
にご協力をいただきました。
スタンスは「おせっかいなおじさん」って感じです(笑)。
ただサーフィンをするために町に訪れる「よそ者」だけれど、少しでも良い環境にしたいという思いがありました。
種子島では、2023年のJPSAのコンテストでの滞在中、
放送関係者と訪れた居酒屋「宴彩 黒潮」で出会った店主の高田健剛さんとの出会いが大きかったです。
振る舞われる料理や地魚の美味さの話から、次第に海岸環境のこと、
僕がビーチの漂流物をどうにかしたいこと、そして島のビーチクリーンの状況などのお話を聞けました。
偶然にも高田さんは熱心なサーファーで種子島のサーフコミュニティの良き兄貴分。
島の魅力をもっと島外の人にも伝えていきたいという気持ちの持ち主でもあった。
たった数回しか種子島に訪れたことがない「よそ者」に対してすごく協力的でした。

そして(2023年)11月23日に Save the Seedと題したビーチクリーンイベントを実施したわけですね?

nico/幸運にも偶然がいろいろと重なったというか。
まず種子島がある鹿児島県と、島にある1つの市と2つの町のうちサーフコンテストで竹崎海岸がある南種子町、
そして種子島のシンボルのひとつで竹崎海岸一帯を管轄するJAXA(宇宙航空研究開発機構)に
ビーチクリーンに対してのヒアリングを行うためにドアをノック(実際には電話を)しました。
「よそ者」「おせっかいおじさん」の得意技です(笑)。
電話をする前は門前払いされても仕方ないよな、と思っていましたが、うれしい裏切りで好感触。
ウェルカムな雰囲気でした。そして、見えてきたことは以下の4つでした。

1_竹崎海岸は種子島の中でも漂流物が多い海岸。
毎年6月に重機などを使用し漁業関係者を含めた100人規模でビーチクリーンを実施するが、1度では清掃の限界がある。

2_ゴミの処理は自治体で行われ、最大2万円の給付金がゴミの焼却に充てられる。
清掃活動の回数が増えれば焼却のほかに焼却場へのゴミの運搬費用が発生する可能性がある。

3_プラスチック素材による魚網や漁具などの漂流物は産業廃棄物として扱われ、焼却処分に費用が発生する。
そのため山間部などに埋却処分をする場合がある。

4_種子島の子供たちは高校卒業後に島を離れてしまうことが多く、高齢化が顕著。
ビーチカルチャーや海の魅力を発展させることが困難な状況。

そこで、たった1回だけのビーチクリーンを開催しても独りよがりで意味がないなと思いました。
活動が年に1回、次第に半年に1回、気づけば月に1回、そして日々の習慣になれば、
種子島がもっと美しく魅力的な島になってくれるに違いない。
種子島の種=SEEDと、活動の種まきという2つの意味を込めて「SAVE THE SEED」と名付けました。
おせっかいの極みですよね(笑)。
でも、僕たちはいい波でサーフィンをさせてもらう。
お返しにビーチクリーンをする。島の人たちといいリレーションが築ける。
僕たちが島を訪れたあとはビーチがきれいになる。また島を訪れたい人が増える。
次の世代は種子島がもっと魅力的になって、島に残る子供たちが増えてくれる。
理想だけれど、好循環でみんながハッピーになる仕組みができたらいいなと思っています。
(後編に続く)


nico

ラジオDJ、ナレーター。
J-WAVE 81.3FMの番組「Mornig Voyage」土・日曜のナビゲーター担当。
ラグジュアリーブランドやメディアなどのイベントMC、
JPSA、WSL、ISA、アダプティブのサーフコンテスト実況を務める。
NSA JUDGE CLASS B取得者。
https://www.instagram.com/nicostagramtokyo/

  • Photo:Dai Wako
  • Edit&Text:Toshiki Ebe(ebeWork)

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