2024.7.19

INTERVIEW Vol.34(前編)

家や車が欲しくて
がむしゃらにお金を稼いでも
1000年後には……。

改めて説明するまでもないことだけれど
PESさんはHIPHOPグループ『RIP SLYME』の元MC。
彼の印象的な高音域とメロウなフロウが
青春の想い出に直結する人も少なくないでしょう。

一瞬で聴く人を波打ち際に連れて行くような楽曲を手掛けるミュージシャンであり、
生粋のサーファー、
そして、グラフィックデザイナーかつコラムニスト……。
多才なアーティストでありながら、
居酒屋で見知らぬ人にリクエストされたら
気さくに歌ってしまうPESさん。

悔しいほどに自然体な“今”と
これからやりたい“未来のコト”を正面から聞いてみました。

2年ぶりの新曲『1000年』に込めた思い

前曲『Chillin’』を発表した2022年7月以降、
およそ2年ぶりとなる新曲はまさかのノービートからの進行。

ピアニスト・YUricewineさんのイノセントなピアノの調べに、
代名詞である耳心地良いフロウでリズムを刻むという
HIPHOPの枠を超えた新境地を見せてくれました。

1000年後の自分たちを想い描く不思議なリリックについては
「家や車が欲しくてがむしゃらにお金を稼いでも
1000年後には、
自分はもちろん、車や家は影もカタチもなくなっていますよね。
“今、価値があると思い込んでいるモノやコトってホントに大切?”
と問いかけたかった」とPESさん。

その想いを詞に乗せたところ、本人曰く“説教臭い歌”なってしまったため
大幅に書き直し、さらにビートすら取り去って
「やっと“正解”と思えるものに辿りついた」と語ります。

ちなみにこの曲、鼻歌のようなフレーズが入るのですが
これは行きつけの居酒屋でのある出来事が
インスピレーションになったといいます。

店主のおばあさんから
「歌手なの? なんか歌って」というリクエスト。
快くかつてのヒット曲を歌ったところ、
「いい曲だね……」と言いながらも、 “?”の表情が浮かんでいたそう。

「HIPHOPに馴染みがない世代にとっては
ライムだのリリックだのって難解なんだな、と。
うちの母ぐらいの歳でも口ずさんでもらえる曲にしたいと考えていたら、
母の鼻歌を思い出して。
シンプルな言葉をハミングのように繰り返すフレーズが出てきたんです」

1000年という“地球の時間軸”で人間の営みを俯瞰しているようで
今この瞬間を一喜一憂し、もがきながら生きる一人ひとりに
寄り添ってくれるような曲に仕上がったのは
こんな微笑ましい創作経緯ゆえかもしれません。

@SHUJI IZUMO / SAVE THE SEED

波と音楽の心地良い関係

PESさんがサーフィンと出会ったのは14歳の頃。
ギターを始めたのがその一年後の15歳だから
サーフィンと音楽は、ほぼ同時期にPESさんの人生に現れたといえます。

「音楽ってエンタメだから、人の心に気持ち良く作用しなくてはならない。
だから難しすぎてはダメで、曲はできるだけシンプルにしたいんです。
波を待つ、いい波が来たら乗るという単純な流れのなかで、
一度頭の中を空っぽにしたら、ふっといいフレーズが浮かんでくることがあって。
海と音楽は、二人三脚で僕を助けてくれる相棒みたいなものですね」

音楽と、そしてPESさんという人格のために必要だった海と波ですが、
疎遠になっていた時期があるといいます。

「20代でメジャーデビューし多忙になって、
『大きなハコを抑えているのにケガでもされたら困る』と
事務所から控えるように言われて。
会場の規模も規模だから、責任が重大なことも理解できたんですが
まだ若かったのもあり、我慢できずにこっそり行ってました。
でも、すっごい日焼けしているからもうバレバレ(笑)。
『散歩してたら焼けちゃって~』とか言い訳したら
『嘘つけ(笑)』『バレてるから!』と突っ込まれてました」

30代後半、懇意にしているカメラマンに誘われたり
サーフィン雑誌『Blue.』で連載を受け持ったことから、
再び海との関係が繋がり週に1~2回、波乗りを楽しんでいるそう。

――ビア、サーフ、プランツ。そしていつでも気持ちのいいサウンド。

『1000年』のワンシーンは、今のPESさんの日常。
そして、もし生まれ変わっても大切にしたいと思えることなのでしょう。

最後に、これからやりたいことを訪ねると
「うーん」と天を見上げてから、一言。

「何はともあれ、ギスギスはしたくないかな。素直でいたいですね」

(後編に続く)


PES

2001年 『STEPPER’S DELIGHT』 でメジャーデビュー。
日本のHIP HOPグループとしては初の武道館公演・海外公演・野外5万人ライブなど
数々の記録を作り続けてきたRIP SLYMEのMC。
『One』『Hot chocolate』『Tales』『SCAR』 を代表格に
RIP SLYME楽曲のソングライティングも多数手掛け、
SMAP、JUJUをはじめとした他アーティストへの楽曲提供や歌詞提供も行う。
また音楽活動以外にも、デザイン関連へのアプローチなど、その活動は多岐に渡る。
https://www.instagram.com/pepes_jp/

  • Photo:Kengo Shimizu
  • Text:Hiroshi Morohashi(LEMON SOUR, Inc.)
  • Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)

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