2024.4.19

INTERVIEW Vol.31(前編)

笑顔とエアで世界に挑むトップサーファー

「おかえり!」「虹帆、戻ってたのかー」「おつかれさん」。
日本で有数のサーフスポットとして知られる
愛知県田原市・渥美半島に広がる太平洋ロングビーチで
波乗りたちが声を掛ける先で微笑むのはプロサーファー・都築虹帆さん。
中学生にしてプロテストに合格。
プロツアーでのルーキー賞を皮切りに快進撃を続け、
2023年には世界シリーズでアジア1位に輝いた気鋭の20歳です。
取材が行われたのは、ちょうど遠征先のオーストラリアから
地元へ戻ってきたばかりの日。
世界中の波を舞台に飛び回る彼女ですが
「田原は世界中で一番ほっとできる場所」とほころびます。

扉をこじ開けた“無垢な突破力”

「サーフィンエリートの一家に生まれただろう、
幼少期から恵まれた環境で練習していたのだろう」と
誰もが予測するところでしょうが、事実はむしろ逆でした。

「両親の趣味がウインドサーフィンだったこともあり、
子どもの頃からよく海に連れて行ってくれましたが
私と弟はむしろスケボーに夢中でした」
サーフィンに本腰を入れたのは虹帆さんが小学校高学年になる頃。
「ボディーボードで“サーフィンごっこ”みたいなことはしていたんですが、
次第に、二つとない“その時の波”に乗る快感にとりつかれました。
自然の力を受け止める楽しさ、難しさにハマり、
サーフィンにのめり込んだんです」

「サーフィン=ハワイ、と思い込んでいた私は、
ハワイの波に乗りたくてしかたなくなりました。
両親に『ハワイに連れてって!』とねだったのですが、
費用がかかることもあり、『そのうちねー』なんて感じで。
『あぁ、これはダメだ』と思って作戦を講じたんです」。

小学6年生の彼女が企てたのは「ハワイに行くための約束事」でした。
お父さんはタバコを止める、お母さんは服を買わない、弟はゲームをしない……。
旅費を捻出するためのアクションプランを書き連ね、
その紙を家族が目にする場所に貼ったのです。
熱量は家族に伝染し、ついに小学6年生の夏休み、
ハワイ・マウイ島でのサーフトリップが叶います。

「あの時の体験にどれほど感動したか、言い表すことはできません。
ただひとつ、決めたことは
『サーフィンで生きていく』
それだけでした」。


帰国後に参加した男女混合の大会ではいきなり優勝を飾ります。
そして、サーフィンへの情熱が高まり切った中学3年生。
虹帆さんは、ここ田原への移住を熱望するのです。
たった14歳の、切実な願いを家族は受け止めました。

「18 oz Standard Mouth」

ハイリスク・ハイリターンで世界と戦う

田原で文字通り“毎日”海に入り、腕を磨いてきた虹帆さんの持ち味は、
波と風に愛されているかのようなスピードとキレ。
そして、大胆で華やかな“エア・リバース”。
しかし、エア・リバースはメイクすれば10点、失敗すれば0点。
日本では女子の試合でエア・リバースに挑む人は皆無です。

Photo:SURFMEDIA / S.Yamamoto

「でも、だからこそエアを決めて、
世界トップサーファーへの足掛かりとしたいんです」
パリ・オリンピックへの切符を辛くも逃した悔しさをにじませつつ
その足はしっかり地についており
「そのために必要なことの一つはやはり“基礎”」と語ります。

昨年、オーストラリアのトレーニングコーチに基礎の大切さを諭され
「プロとしての実力があると自負していましたが、
突き詰めなければならない“基礎”がまだありました。
基礎がしっかりすれば
私の武器であるスピードやエアの原動力につながると確信しています」
海を背景に、終始にこやかにインタビューに応じてくれた虹帆さん。
波を一瞥し「入っちゃおうかな」。

無垢な突破力を備えたジーニアスがさらに基礎を磨いた先、
どんなライディング、そしてエアを見せてくれるのか…。
世界を見据える夢に期待が膨らむのは、私たちだけではないはずです。

(後編に続く)


都築虹帆

2003年、愛知県生まれ。小学6年生で初出場した試合で初優勝。
常滑市から田原市へ拠点を移した2018年に
日本プロサーフィン連盟(以下JPSA)プロ合格。
翌年、JPSAプロツアーランキング2位、ルーキーオブザイヤーを獲得する。
2020年よりWorld Surf League(以下WSL)QSでの挑戦をスタート。
2022年にはWSLの「QS 5000 Taiwan Open of Surfing」、
「White Buffalo Omaezaki Pro Junior」で優勝を飾る。
2022/2023シーズン、Asia QSランキング1位。

  • Photo:Kengo Shimizu
  • Text:Hiroshi Morohashi(LEMON SOUR, Inc.)
  • Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)

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