2025.5.30

MAGAZINE Vol.44(後編)

南圭介×若岡拓也クロストーク
2025「MT.FUJI100」振り返り

日本最大のトレイルランニングレース
「Mt. FUJI100」に参加した
Topo Athleticのジャパンチーム所属の南圭介さんと若岡拓也さん。
前編では、大会に出走した南さんについて、
そのサポートと取材を行った若岡さんが筆者となり
レポートをしてもらいました。
そして後編では、
ふたりにレースを振り返りつつ
次のチャレンジについて対談をしてもらいました。
(前編はこちら)

若岡: まずはレースお疲れ様でした。
南くんはぜんぜん興味がなかったと思うけれど、僕はサポーターをしているうちに、
いい結果への欲が出てきました。
レース終盤ではトップ10入りさせようと、こっちが熱くなってました(笑)。

南: (順位やタイムに)興味はなかったですね。
目標タイムを22時間半で設定していて、
これぐらいでゴールできる走力があれば、いいなと思ってたので。
最後のほうは目標を上回れそうだったんで、
今後を見据えたトレーニングとしては充分だなと思ってましたね。

若岡: 走っているときの表情が淡々としていたのは、それほどツラくなかったからですか?

南: しっかり走れるコースなので、疲労はありました。
それにレース途中で眠いなあというのはありましたよ。
でも、100マイル(160km)ぐらいだったら、表情には出ないですね。自分の中に留めておける程度です。
けれど200マイルレースや、去年エントリーしたGR10のFKTとかになると、留めておけなくなる。
なんか叫んじゃいますね。

※GR10 FKTとは?
GR10はフランスとスペインの国境にまたがるピレネー山脈を横断するロングトレイルの一つ。
全長900kmを超えるルートは、通常であれば45〜60日かけて踏破を目指す。
この過酷な道のりで、南選手は昨年、最速タイムを指すFastest Known Time(FKT)に挑んだ。
記録は9日余り。挑戦の模様はドキュメンタリーフィルム「CHASING SOUTH」として視聴可能。

若岡: 叫ぶこと、あるんですね。見てみたいかも。
それにしても、トレーニングの一環でこの記録(22時間8分)はすごいなぁ。
「GR10」のイメージは険しい山ばかりだけど、
「Mt. FUJI100」みたいな走れる区間もあるんですか?

南: 「GR10」のコースは山岳が続くイメージだと思いますが、トラバース道もけっこうあります。
走るところも割といっぱいあるんですよね。
走れるレースをイメージしたら、あぁ「Mt. FUJI100」がいいなと思って出場することにしました。
しっかり走るならサポートもあったほうがいいなと考えて、若さんにお願いしたんです。

若岡: 南くんは2年前にも完走していたから、
「Mt. FUJI100」を再び走るイメージがなかったから意外でした。
僕がチャレンジした本州縦断のときや日本列島縦断の際に、
南くんにサポートしてもらいました。
だから、今回声をかけてもらって、
ようやく僕もサポートできると思ってうれしかったです。

南: 本州と日本列島の縦断も面白かったですね。
本州のときは、いちばんしんどそうだった軽井沢周辺を走って、
日本列島のときは九州脊梁山地を一緒に越えて。

若岡: 本州のときが初対面で2021年だったから、2人ともTopoアスリートになる前かな。
あのときは、共通の友人を通じて連絡を取り合っていたから、初めて顔を合わせるまではけっこう緊張してました。

南: そうだったんですか。初耳。

若岡: 写真だと、タトゥーとドレッドヘアのいかついイメージだったから、こわい人だったらどうしようって。
一緒に走ってみたら真逆の人で良かった。

南: 苦笑

若岡: 脱線しましたが、目標タイムを切れた要因は何かありますか?

南: 冬場にやってた峠走が良かったですね。
小笠原諸島の無人島に行って、外来種の侵入防止柵をつくる仕事をしているんです。
それもけっこう重労働なんですけれど、終わってから16kmの峠道を毎回全力で走るんです。
脚が終わった状態にして、さらに山で動いたりして。
そうすることでスタミナが落ちないようになってきた気がしますね。
そのトレーニングのときに履いていたTopoの「CYCLONE 3」が良かったです。
軽くてスピードが出しやすくて、鍛えるのにぴったりでした。

「CYCLONE 3」

若岡: レースが終わってからの疲労はあまりないですか?

南: 2年前に「Mt. FUJI100」を走ったときは、
レースから5〜6日経っても内臓系の疲労が身体の深部にズドンって残っていました。
けれど今回はそれがまったく感じられないですね。
前腿とハム(ハムストリング)は少し痛かったのですが動けなくなるほどじゃなくて、
少し止まっていると固まってしまうのですが、こちらも動きだせば動けるようになる状態でした。
「Mt. FUJI100」が終わってから毎日走れていて、だいぶ心身ともに強くなってる感覚があります。

若岡: 20時間で走ってきて、その程度の疲れ具合とは。体がすさまじく強くなっていますね。
僕はトラックでよく使っているのですが、
「CYCLONE 3」はスピードは出る一方でクッションが薄くないですか?

南: 薄いです。僕はあえてクッションの薄いシューズを選んでいます。
下りなんかは足への衝撃がダイレクトに来るから、
そのおかげで筋肉や関節が衝撃に強くなったのかなと思ってました。

若岡: それでケガしないのが本当にスゴい。

南: 前はシンスプリントになったりしてたんですけど、
「CYCLONE 3」を履いててからケガはぜんぜんないですね。
衝撃があるけれど、足を守ってくれている感じです。

※シンスプリントとは
ランニングやジャンプを繰り返すことによって、下腿(すね)の内側に痛みが生じるスポーツ障害。

若岡: Topoを履くようになってから、確かにケガは減ったかも。

南: Topoのシューズ全般に言えることですけれど、
前足部が広くて靴に縛られている感じがないのがいいですよね。
僕の足の形だと(ほかのメーカーのシューズは)ほとんど合わなくて。
履いていると小指が痛くなって、絶対に死んじゃってました。
それがTopoを履くようになってから、そういうトラブルがなくなりましたね。マメなんかも。

若岡: マメと言えば、レース前に足に塗っていた「Body Glide」はマメ防止ですか?

南: です。足裏と股ずれ対策で塗っていました。
落ちにくいから、スタート前に塗っただけで十分効果が持続してくれました。
汗や雨で流れにくいからいいですね。
もともと海でサーファーとかが使っていたから、そのへんも考えられているんでしょうね。
むしろ、洗ってもまだ付いてるよってときもありますもん。

若岡: それは単純に塗りすぎなのか、洗いが足りてないのかでしょう(笑)。
汗といえば、今回のレース序盤は予定のタイムより30分ほど早くて、
発汗量がかなり多かったけど、ペース的に問題ありませんでしたか?

「Body 42g」

南: まわりの選手に流されたわけじゃなくて、調子が良かっただけで問題ありませんでした。
汗対策に、小笠原の海水でつくった塩をなめていました。これが一番効きます。
最初のサポートエイドで若さんにペースを抑えてもいいよって言われました。
けれど「まぁ抑える必要もないかな」って、そのまま行きました(笑)。
潰れたら潰れたで、その状態から耐えて走る練習になると考えていたので。
結果的に最後まで、しっかり走れたので良かったです。

若岡: 潰れるのもトレーニング。その発想がスゴい。
何はともあれ、目標のタイムをクリアできたし「GR10」は記録更新できそうですか。

南: いけますね。
今回のペースで毎日16〜17時間くらい走って、体のケアや寝る時間をつくれれば、
9日間で完走できます。リベンジしようと思っているので。

若岡: 毎日「Mt. FUJI100」はしんどい。並走するのもしんどいな。
現地に行くだけでも大変ですけれど。

南: はい、特に資金面がしんどいですね。
去年はパタゴニアからのスポンサードで渡航費などを確保できましたが、
今年は僕が立ち上げた「Feel Earth Project」という
世界中のロングトレイルのFKTに挑戦するプロジェクトで挑むつもりです。
資金はクラウドファンディングで集めようと思っているので、
ご支援のほど宜しくお願いします。

若岡: 協力しないと気まずい流れだ(笑)。でも支援します。
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南 圭介

1985年生まれ、北海道札幌市出身。
世界各国のフェスで踊り、放浪した後、
100マイル以上走り続けるウルトラトレイルランニングを始める。
2016年、小笠原諸島・父島に初来島し、
生態系保全のための外来種対策の仕事に携わる。
小笠原諸島の自然の魅力を伝える「NPO法人BOISS」に所属。
環境保全活動やトレイルランニングの普及活動を行っている。
https://www.instagram.com/south_keisuke/


若岡 拓也

1984年、石川県金沢市生まれ。
2014年に新聞社を退職して走り始める。
荷物を背負って1週間走るステージレースや
トレイルランニングレースなどで活躍。
2021年に「日本山脈縦走」3,000kmを踏破。
2023年に知床から鹿児島まで山々をつなぎ、
日本列島大縦走として4800kmを踏破。
https://wakaoka-takuya.com/
https://twitter.com/mofmoft
https://www.instagram.com/wakaokatakuya

  • Photo & Text:Takuya Wakaoka
  • Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)

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