2025.8.22
INTERVIEW Vol.47(前編)
「小さいころから当たり前に、サッカーが一番にあった」少女は今や、
日本を、いや世界を代表する女子サッカー界のアイコンに成長。
今年7月には“なでしこジャパン”の新キャプテンにも任命されるなど、
まさに充実の時を迎えています。
そんな長谷川唯選手の根底に流れるサッカーへの愛情、
そして「攻撃以上に守備が楽しい」と語る理由とは?
貴重なオフシーズンに帰国した彼女の、内に秘めた本音に迫ります。
サッカーを始めたきっかけは、
3つ年上のお兄さんや少年団で指導者をしていたお父さんの影響。
常にボールが身近にある環境で、
長谷川選手はめきめきと実力を伸ばしていきました。
「兄とはよく対決をしていました。
ボールを高く上げて、トラップのうまさを競ったり。
兄も結構センスでプレーするタイプで上手なんですが、
そのころから、“自分は持ってるな”という感覚はありました。
一発勝負で勝てちゃうことも多かったんです。
公園の水道の上に置いたテニスボールを、サッカーボールで狙う。
フェンスの網に空いた穴を通す。
そういう我が家定番の遊びも、
小さいころから兄といい勝負ができていたし。
まあ、もし負けても私が勝つまで続けてもらっていたんで(笑)」
かなり負けず嫌いですか? と訊くと
「はい、めちゃくちゃ!」と即答。
では当時、憧れていた選手はいたのでしょうか。
「最初はロナウジーニョ。すごく楽しそうにプレーしますよね。
当時はサッカーのコンテンツが今ほど充実していなかったので、
ハイライトやプレー集の動画を頻繁に見ていました。
中学生になってからは(アンドレス・)イニエスタです。
相手の逆をとるのがうまい彼らの動きは、眺めているだけでも面白い」
そんな名手たちが出場するワールドカップにも心を奪われながら
「女子の世界との違いはわかっていませんでした」と語る長谷川選手は、こう続けます。
「幼心にふわっと、でも本気で、
将来はサッカー選手になりたいと思っていました。
具体的に道が見えてきたのは、
(日テレ・)ベレーザの下部組織であるメ二ーナに入った中学生のころ。
当時の選手たちが仕事をしながらプレーしているという仕組みを理解したうえで、
それでもずっと続けたいと思ったんです」
1993年にはJリーグが開幕し、男子サッカー選手のプロ化が顕著に。
一方、女子のプロリーグにあたるWEリーグ発足は2021年のこと。
1997年生まれの長谷川選手は、女子サッカーの成熟を体感しつつ、
その進化に貢献してきました。
「今は女子選手を取り巻く環境が変わっていますが、
ありがたいことにその過程を全部見てきています。
ただ、たとえプロ化していなくても、私はサッカーをしていたはず。
これまで『辞めたい!』と思ったことは一度もないし、
今もサッカーが純粋に楽しいから続けているというのが本音ですから」
現在は日本を離れ、イングランドでの4シーズン目を見据える28歳。
昨季は年間最優秀ミッドフィルダー賞を受賞するなど、
世界的な評価を高めています。
そんな自身の強みについてはどう考えているのでしょう。
「う〜ん。簡単に言うと、予測・ポジショニング・運動量ですね。
で、それらを一番活かせるのが守備だと思っています。
もちろん攻撃も好きですし、チャンスも作らなきいけない。
だけど個人的には、守備がすごく面白い。
サッカーの楽しさが凝縮されている感じですね」
確かに、所属するマンチェスター・シティWFCでは
主に中盤の舵取りを担うアンカーとして活躍。
鮮やかなインターセプトや、球際で粘り強くボールを奪取するシーンも少なくありません。
「1対1で自分がボールを奪うのも守備だし、
コースを限定して後ろ(の選手)に取らせるのも守備。
いろんなやり方があるなかで、考えて選択するのが面白いんですよ。
アンカーの方が自分でボールを取る場面が多いから
見ていてわかりやすいのかもしれませんが、
どのポジションでも実は守備のほうが楽しいんです。
例えば相手に寄せるタイミングとか、
前のポジションでも守備面で考えることがたくさんある。
だから攻撃面での評価もありがたいけれど、
本当は守備を褒めてもらったほうがうれしい」
となると、ディフェンダーとしてもプレーしてみたくなるのでは?
そんな単純な問いかけにも、長谷川選手は真摯に答えてくれました。
「実際に私がセンターバックに入ったら、
今の人たちとは違った強みが出せるイメージはあります。
でも、そのポジションはヘディングが強くて相手の足元にガツンと行ける選手が前提だから、
自分には適性がない。
だから結局、やらないほうがいいなって。
サイドバックだと、やり方はちょっと違ってきて。
前の人を動かしながら相手のボールを奪ったりとか、
そこはできるかなと思ったりします」
“好き”に貪欲な一方、柔軟に物事と向き合う。
長谷川選手の類稀な姿勢は、チームに大きな影響を与えるに十分。
今年7月には女子日本代表の新キャプテンを務めることが発表され、
さらなる期待が集まっています。
「マンチェスター・シティのテクニカルディレクターだった
ニルス(・ニールセン)がなでしこの新監督になって、
彼が知っている選手は自分だけという状況でした。
だから代表合宿で少し話した際に
『ああ、これはキャプテンにされそうだな』という感覚はありましたね。
正直、(キャプテンは)自分のキャラではないと思う。
だけど、逆にいい経験だと思ってしっかり務めたいと考えています。
自分が知っている歴代のキャプテンは、
人間としても素晴らしい人ばっかり。
澤(穂希)さん、宮間(あや)さん、(熊谷)紗希ちゃん。
みんな周りから慕われて信頼がある選手なので、
そういうところは受け継いでいきたいです。
ただしあまり気負いすぎずに、今まで通りプレーで引っ張っていければと思います」
(後編に続く)
YUI HASEGAWA
1997年埼玉県出身。
2013年当時に飛び級でなでしこリーグの公式戦に出場するなど早くから注目を集め、
2014年のU-17女子ワールドカップではチームの優勝に貢献。
2017年には日テレ・ベレーザで三連覇を成し遂げ、
以降4シーズン連続でベストイレブンに選出された。
海外へと活躍の場を移した2021-22シーズンからも、順調にステップアップを重ねる。
昨季はマンチェスター・シティWFCでの3シーズン目を戦い抜き、
2年連続となる全試合出場を達成。
クラブの年間最優秀選手にも選ばれている。